校門の前で、幼馴染みの梨花に言われた。
梨花に腕を引っ張られ、なんとかギリギリ間に合った。
試験中、まだドキドキしていたものの、緊張
感はなくすらすらと鉛筆が動いた。
試験後、梨花と一緒の帰り道で
と聞かれた。相当なぞのようだ。
梨花に駅のホームであったことを話した。梨花は真剣にその話を聞いてくれて、その横顔に少しドキッとした。
話を聞き終わったあと、梨花は驚いたような表情で
と言ってくれた。その言葉に再びドキッとする。
少し間をあけてから、梨花は
と小さな声で言った。
そういえば、梨花って医者になるのが夢だったな。
梨花は立派な夢を持っている。それに比べて僕は...将来のことなんて何も考えず生きている。
あっ、そういえば...
僕は一番気になっていたことを聞いた。
すると、梨花は少し顔をしかめてから不機嫌そうに
と言った。
僕はなぜ梨花が不機嫌なのかわからなかった。今のどこに怒る要素があったのだろう?
その後気まずい空気が流れ、僕たちは一言も喋らず帰った。
家に入ると、玄関に一番近いリビングのドアからいつも通り光がもれていた。
ドアを静かに開けると、キッチンでご飯を作っているお母さんが見えた。
お母さんはいつも通り、ゆっくりとした口調で言った。
うちにお父さんはいない。
外国で働いていて、年に一度か二度帰ってくる。
こんな生活が何年も続いたせいで、僕はお父さんという存在を忘れかけていた。
お母さんはこの事についてなんと思っているのだろう?
悲しいのか、怒っているのか。少なくとも、嬉しそうではなさそうだ。
お母さんと交わす言葉はいつもこんな感じ。
悩みを打ち明けて、話し合うことは今まで一度もなかった。
だから、今日のことも話そうか迷っている。
いつもはかけられない言葉を聞いて思わず首を傾げてしまった。
そうか。お母さんは受験を気にしているんだ。
言いたくなかった。何でそんな恥ずかしいことしたの?って怒られそうだったから。
お母さんはそれ以上聞かなかった。僕は聞き返してほしいという気持ちもあり、複雑な気分だった。
自分の部屋に行き、急いでパソコンを開く。そして、覚えている限りの病院の名前を打ち込んだ。
すると、すぐ上にそれらしき場所がでてきて、そこは今日僕がいた駅に近い病院だった。
間違いない。ここだ。
そこまでの行き方を念入りに調べ、紙に書き込んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!