第6話

笑い声
35
2019/03/24 11:58
秘羽(ヒワ)
ただいま
家につくと、少し現実に引き戻された気分になった。
リビングのドアを開けると、いつも通りお母さんがキッチンにいた。
いつ話しかけたらいいか迷っていると、お母さんは僕に気づいたのか
秘羽の母
おかえり
と言った。
秘羽(ヒワ)
あのさ、お母さん
何か話したい。このまま、いつもみたいになりたくない。
秘羽の母
何?
だけど、いざとなると何も言い出せなかった。
だって、何を話せばいい?
黙っていると、お母さんは動かしていた手を止め、信じられないことを言った。
秘羽の母
すごいわね
たった、一言だけ言われただけなのに涙が一筋頬に伝った。
秘羽の母
倒れた女の子、助けたんだってね
秘羽(ヒワ)
どうして、知ってるの?
秘羽の母
梨花ちゃんのママから聞いたの
すると、お母さんは振り向き
秘羽の母
今日は外食する?
と言ってきた。
僕が静かに頷くと、お母さんは優しく微笑み支度を始めた。
言わなくていい。そんな言葉が頭の中に浮かんだ。
お母さんは全てわかってるんだ。僕の事をちゃんと見てくれていたんだ。
お母さんの笑顔からそれが読みとれた。
秘羽の母
何食べたい?
秘羽(ヒワ)
お母さんの好きなもの
たとえ、今伝えなくてもまた好きなときに相談すればいい。僕には時間がある。
秘羽の母
高校受かるよ
お母さんは自信満々な笑みで言った。
秘羽の母
だって、あんなに頑張ったんだもん
秘羽の母
ちゃんと、見てたよ
その一言一言がすごく嬉しかった。
そして、玄関の鍵を閉めるとき
秘羽の母
今日、女の子が入院してる病院行ってたでしょ?
と聞かれた。
秘羽(ヒワ)
それも、梨花から聞いたの?
秘羽の母
ううん、なんとなくね
それを聞いてお母さんと距離をあけていたのは自分ということに気づいた。
秘羽の母
その女の子、無事だった?
秘羽(ヒワ)
うん、元気そうだった。
これからも、病院に通うから
秘羽の母
よかった
お母さんが嬉しそうに笑った。
だけど、優衣香は余命五年。
彼女は時間がない。

優衣香はお母さんに思いを伝えられたのだろうか?

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