ドタドタという音が大きくなり、勢いよく病室のドアが開いた。
そういうとお母さんは口をつぐみ黙った。
お母さんとは会いたくなかった。
もう一度涙をこらえながら、言った。
すると、お母さんは一度ため息をついてから
と言って、病室を出ていった。
お母さんが出ていった後、こらえていた涙が溢れて止まらなくなった。
私だって、お母さんが嫌いでこんなことしてる訳じゃない。お母さんが大好きだからこそ喋りたくなかった。
いつ死ぬかわからない状況でお母さんと喋るのが辛かった。
余命五年と言い渡されたのは、私が小学五年生の時。
昔から心臓が弱く、よく入院してた私は手術すれば治るものだと思っていた。
だけど、違った。もう手遅れだったなんて知りたくなかった。
最初は受け入れられず、悲しむことさえできず、ただただ怖かった。
そして、受け入れてからは怖さと悲しさが混じりあい眠れない日が続いた。
そして、友だちも失った。
最初は毎日お見舞いに来てくれた友だちも、一人二人と減っていった。
最後まで私の話し相手でいてくれた親友も、中学生になってから来なくなった。
忙しいのはわかってる。だけど、なんだか見捨てられたようで悲しかった。
お母さんは私が小学二年生の時お父さんと離婚した。
離婚した次の日からお母さんは毎日のように仕事に行くようになった。
仕事が忙しくなると、お母さんはため息ばかりつくようになった。
正直今思うと余命五年を言い渡されてお母さん、嬉しかったんじゃないのかって思うことがある。
私がいない方がお母さんが楽になる。そう考えると別に死ぬのも悪くないかなって思う。
涙も落ち着き、ふとあることを思い出した。
そういえば、昔約束したな。最後まで私の隣にいてくれた親友との約束。
きっと、忘れてるだろう。
だけど、私は忘れない。あれは特別な約束だから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!