かすかに空気の振動を感じた。やけに現実みたいで、重い瞼を開けた。夢の世界と同じく、目の前にはミンギュが俺の顔を覗き込むように立っている。
『いま、なんかいっ…た?』
「…言いましたよ。僕、ひょんの事ずっと好きなんです。」
『急に…どしたんだよ。』
「ただ、言いたくなって。寝ぼけて[俺も…]とかって言ってくれるかな~って思ったけど、酔い…覚めちゃいましたよね。すみません、気にしないでください。」
足早に部屋を出ようとする彼を、気づくと俺は必死で引き止めていた。腕を掴むと、ミンギュの手は震えていた。
…こいつ。
『逃げるなよ、俺まだ何も言ってないじゃん。』
固まって、俺の手を振りほどこうともしない。相当の勇気で言ってくれたのが伝わって…。次に勇気を出すのは、俺だ。
『…みんぎゅ。……お…俺も好きだ、みんぎゅのこと、ずっと。』
静かにこっちを見る目は、冷たかった。
「ひょん、どういう意味か分かってます?僕の言う[好き]と、ひょんという[好き]はきっと違いますよ。僕の[好き]は……!!」
脳より先に、体が動いた。我ながら大胆だと思う。けど、勘違いされたまま、気まずくなるのだけは嫌だったから。それが俺らの最初のキスだった。
『…わかってるよ、ちゃんと。ずっと前から、こうなりたいって願ってたから。』
顔の近さに耐えられなくて逸らそうとすると、くいっと顎を上げられ、やさしいキスがひとつ降ってきた。
「…ひょんがそんなこと言うなんて。反則すぎます。」
俺の肩に額をぐりぐりする弟は、思ったより大人になったようだった。…これじゃ俺の心臓の方が危ない気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。