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第1話

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2019/12/15 13:14
 透き通るほど、白い肌。血色のいい唇。壁に追いやって、彼の足をロックする。恐怖と、興奮。どちらも混ざりあった眼差しを僕に向ける。これが僕は大好きだ。

『ミンギュ…ッ』

啄むようなキスをひとつする。きっと彼は物足りないはず。触れるだけのくちづけを繰り返す。

…ほら、物欲しそうな顔。

ぱちっと目が合う、それが僕らの合図だ。彼の顔をグイッと持ち上げ、深く口付ける。

『ん…はぁ、…ミン…ギュッ』

切れ切れに待って、と訴える声を無視し、彼の素肌に触れようとした時、突然鋭い痛みを感じ突き飛ばされた。

なにが…起こったのか。

痛む唇に触れるとそこには血が滲み、そして1メートル前に彼が立っている。ただただ、怯えた顔をして。

「ヒョン……?」

言葉が続かず、立ち尽くすことしか出来ない僕に、ぎこちなく、笑う。

『もう、やめよ。こういう事。』

それだけ言って俯いた彼を、抱きしめることは出来なかった。細身な彼がさらに小さく、見えない何かに怯えているように見えて。そしてその《何か》はよく分からないけど簡単に消してあげられるそれではないような気がして。

『…ごめんなさい。おれ、もう行かなきゃ』

逃げるようにここを立ち去ろうとする彼を、必死で止めた。駄々をこねる子供のように。

「ひょん、どうしたんですか突然。なんか…焦ってるように見えますよ?相談くらいなら僕でも聴けますから…話してくれませんか?」

『…。』

僕の手を振りほどく力も、無いようだった。少し震えて、拳を強く握って。…何を抱えてる?…何が彼をこうさせる?…一体何が?
高速で頭を回転させても答えは出なくて、ヒョンの腕を掴む力が強まる。

『…いっ』

苦しそうなヒョンの声が聞こえた。慌てて手を離すと、今度は彼の手が優しく僕の頬を捉える。

『…みんぎゅ、ごめんだけど、理由は言えない。おれはこの仕事を辞めるつもりは無いし、辞めたくもない。お前らのことも今までもこれからもずっと、好きだけど。少しだけ、時間が欲しい。わかって、みんぎゅ。』

言葉を終えて、顔が近づく。噛まれたところを優しく舐めて、吸われる。少しの痛みと、幸福感が僕を充たしていった。睫毛が触れる距離で見つめ合い、彼が言った。

『キムミンギュ、愛してる』





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