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第3話

『 悲しいキス 』21〜fin.
280
2019/05/21 02:32
『悲しいキス』

☆21☆



門の前で、立ち止まって動かない なな。


その数秒で、何が変えられるワケでもない。


でも、ななは、なな なりに、ケジメを付けようとしたんだと思う。



振り返り、勢いよく俺の目の前まで来ると、


な「あのっ//…私…わたし……」





なな…


そんな風に…頑張られたらさ…


俺の想いだって…我慢しきれないよ…




ななは、一旦 落ち着こうと、深呼吸をした。



な「…ワガママ…聞いてもらえますか?」
裕「…なに?」
な「い、一度だけ//…抱きしめて//……もらいたいん…です//」







な「……最後に…一度だけ……」






最後か……



☆22☆



な「……最後に…一度だけ……」






最後…………か…





俺は、ななを引き寄せ 抱きしめた。




汚れたシャツと、かすかに残る潮の香り。




最後を ねだるには、俺は大人だったのかも知れない。





このまま、好きでもない奴のモノになるくらいなら…






抱きしめた腕を緩め、ななの涙を拭った。




裕「なな……ごめんな…」




そう言うと、俺は、何かを言おうとした ななの唇を塞いだ。




恐らく、ななにとっては ファーストキスであろう。


汚さないように守ろうって、さっき誓ったばかりなのに。




その真っ白に、俺の痕を残してやりたかった。


何も変えられない、この悔しさを…


何も無い、自分への怒りを…





何よりも…














なな…


好きだよ…





裕「ごめん…」


俺は逃げるように、その場を去った。



☆23☆

♪〜悲しいキス〜♪

たった一度 抱きしめてくれるなら
風が涙さらう前に
サヨナラさえ言い出せない私が
ありったけの勇気で
あなたに もらった 最初で最後のキス
締め付けられる胸が痛くて動けない

こんなに悲しいなんて思ってなかった
一度 抱きしめてもらえたなら諦めつくはずだったのに
こんなに悲しいキスなら二度といらない
誰も見ないで足を止めないで
こんな私を見ないで

貴方が言うチョットした事にさえ
くじけそうな恋だった
密やかさと臆病になる事を
間違えてた事 知った
貴方が行く日に背中を押されながら
想いを断つための決心だったのに

こんなに悲しいなんて思ってなかった
これで終わったと笑いながら
報告するはずだったのに

こんなに悲しいキスなら二度といらない
誰も見ないで声をかけないで
悔やんでばかりの私
♪〜♪〜♪〜


☆24☆


光「ゆっう〜とくぅ〜ん♡」


休憩室のテーブルに、突っ伏してた俺。

光さんが最高潮のテンションで絡んできた。





アレから ずぅっっっっと考えてる。


思い出すのは、キスの後の悲しい笑顔。


俺はホントにバカだ。


ななの中に残したはずの痕は、俺の中で大きな傷になっていた。




光「ねぇ〜裕翔くぅ〜ん♡…一生に一度くらいさぁ…」


ん??

伏せてた頭を、もったり起こすと…

光さんは、思ってたより真面目な顔をしていた。



光「一生に一度くらいさぁ…男見せてみろよ…」


ドキッ!とした。


だって…
そう言いながら光さんが かざした封筒には…招待状と俺の名前が書いてあり、



隅には…『Happy Wedding♡』



裕「これって…」
光「おうっ!!!」







光「mission impossible だぁッ!!!」






・・・・・えっ?


☆24☆


一生に一度…


だとしても…
こんな派手な演出するか?普通?





光「絶対ひるむなよ!」


最小限の低いトーンで俺に伝える。


裕「お、、、おん!」


上がらないワケがない。


俺はネクタイをキュッと締め直し、自分へ気合いを入れた。






光「時間だ。」





その日。
限られた人しか通ってはいけないその路に、光さんが踏み出した!






光「その結婚!…反対です!!!」






その声は、静かなチャペル中に響き渡った。







な父「光じゃないか?!お前!何を言ってるんだ!!!」






ななの父親が そう騒ぎ立てると、会場は騒めき始めた。






裕「お、、、俺もっ!!!」




光さんの後ろから出てきた真打。




な「えっ!裕翔さん…」




俺は、真っ直ぐに ななの元へと歩んだ。




☆25☆



真っ白なドレスを まとった なな…




側へ行き、ゆっくりと ななの手を取り ひざまづく…




愛する人へ捧げる言葉…




裕「なな…俺に、あなたを……守らせてください。」




ななの澄んだ瞳から、まるで宝石のような涙が、ポロリと落ちた。





な「…っ……はい。」






な父「ななっ!!!」
光「旦那様!コレは、りな様の意向です。」
な父「なにっ!りなの?!」




裕「行くぞっ!」
な「へっ?」
裕「一生に一度のmission impossibleだよ!」



俺は、ななの手を強く握り走った!



それはドラマで見たようなシチュエーション。


振り返ると、パァッ!と明るい ななの笑顔。


そのままバイクに乗り込むと、ななのドレスは、都会の空気へとキラキラなびいた。







ほら!
俺の背中から伝わるだろ?








なな…好きだよ。





☆fin.☆


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