『悲しいキス』
☆21☆
門の前で、立ち止まって動かない なな。
その数秒で、何が変えられるワケでもない。
でも、ななは、なな なりに、ケジメを付けようとしたんだと思う。
振り返り、勢いよく俺の目の前まで来ると、
な「あのっ//…私…わたし……」
なな…
そんな風に…頑張られたらさ…
俺の想いだって…我慢しきれないよ…
ななは、一旦 落ち着こうと、深呼吸をした。
な「…ワガママ…聞いてもらえますか?」
裕「…なに?」
な「い、一度だけ//…抱きしめて//……もらいたいん…です//」
な「……最後に…一度だけ……」
最後か……
☆22☆
な「……最後に…一度だけ……」
最後…………か…
俺は、ななを引き寄せ 抱きしめた。
汚れたシャツと、かすかに残る潮の香り。
最後を ねだるには、俺は大人だったのかも知れない。
このまま、好きでもない奴のモノになるくらいなら…
抱きしめた腕を緩め、ななの涙を拭った。
裕「なな……ごめんな…」
そう言うと、俺は、何かを言おうとした ななの唇を塞いだ。
恐らく、ななにとっては ファーストキスであろう。
汚さないように守ろうって、さっき誓ったばかりなのに。
その真っ白に、俺の痕を残してやりたかった。
何も変えられない、この悔しさを…
何も無い、自分への怒りを…
何よりも…
なな…
好きだよ…
裕「ごめん…」
俺は逃げるように、その場を去った。
☆23☆
♪〜悲しいキス〜♪
たった一度 抱きしめてくれるなら
風が涙さらう前に
サヨナラさえ言い出せない私が
ありったけの勇気で
あなたに もらった 最初で最後のキス
締め付けられる胸が痛くて動けない
こんなに悲しいなんて思ってなかった
一度 抱きしめてもらえたなら諦めつくはずだったのに
こんなに悲しいキスなら二度といらない
誰も見ないで足を止めないで
こんな私を見ないで
貴方が言うチョットした事にさえ
くじけそうな恋だった
密やかさと臆病になる事を
間違えてた事 知った
貴方が行く日に背中を押されながら
想いを断つための決心だったのに
こんなに悲しいなんて思ってなかった
これで終わったと笑いながら
報告するはずだったのに
こんなに悲しいキスなら二度といらない
誰も見ないで声をかけないで
悔やんでばかりの私
♪〜♪〜♪〜
☆24☆
光「ゆっう〜とくぅ〜ん♡」
休憩室のテーブルに、突っ伏してた俺。
光さんが最高潮のテンションで絡んできた。
アレから ずぅっっっっと考えてる。
思い出すのは、キスの後の悲しい笑顔。
俺はホントにバカだ。
ななの中に残したはずの痕は、俺の中で大きな傷になっていた。
光「ねぇ〜裕翔くぅ〜ん♡…一生に一度くらいさぁ…」
ん??
伏せてた頭を、もったり起こすと…
光さんは、思ってたより真面目な顔をしていた。
光「一生に一度くらいさぁ…男見せてみろよ…」
ドキッ!とした。
だって…
そう言いながら光さんが かざした封筒には…招待状と俺の名前が書いてあり、
隅には…『Happy Wedding♡』
裕「これって…」
光「おうっ!!!」
光「mission impossible だぁッ!!!」
・・・・・えっ?
☆24☆
一生に一度…
だとしても…
こんな派手な演出するか?普通?
光「絶対ひるむなよ!」
最小限の低いトーンで俺に伝える。
裕「お、、、おん!」
上がらないワケがない。
俺はネクタイをキュッと締め直し、自分へ気合いを入れた。
光「時間だ。」
その日。
限られた人しか通ってはいけないその路に、光さんが踏み出した!
光「その結婚!…反対です!!!」
その声は、静かなチャペル中に響き渡った。
な父「光じゃないか?!お前!何を言ってるんだ!!!」
ななの父親が そう騒ぎ立てると、会場は騒めき始めた。
裕「お、、、俺もっ!!!」
光さんの後ろから出てきた真打。
な「えっ!裕翔さん…」
俺は、真っ直ぐに ななの元へと歩んだ。
☆25☆
真っ白なドレスを まとった なな…
側へ行き、ゆっくりと ななの手を取り ひざまづく…
愛する人へ捧げる言葉…
裕「なな…俺に、あなたを……守らせてください。」
ななの澄んだ瞳から、まるで宝石のような涙が、ポロリと落ちた。
な「…っ……はい。」
な父「ななっ!!!」
光「旦那様!コレは、りな様の意向です。」
な父「なにっ!りなの?!」
裕「行くぞっ!」
な「へっ?」
裕「一生に一度のmission impossibleだよ!」
俺は、ななの手を強く握り走った!
それはドラマで見たようなシチュエーション。
振り返ると、パァッ!と明るい ななの笑顔。
そのままバイクに乗り込むと、ななのドレスは、都会の空気へとキラキラなびいた。
ほら!
俺の背中から伝わるだろ?
なな…好きだよ。
☆fin.☆
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!