猿山は何も無い暗い空間で1人寝っ転がってため息をついた。
気がつけば猿山の隣には見覚えのある執事が立っていた。顔はよく見えないが、申し訳ない表情をしているのは声でわかった。
猿山はヘラッと笑い執事を安心させようとする
なんで覚えてるんだ?記憶は消えたって…執事が……
猿山は頭を動かして考えるが今は何故目の前に絵斗がいるのかと驚きと不安で上手く頭が回らなかった。
猿の像を撫でる絵斗の温もりはこちらにずっと届いている。猿の像は俺を封印した物。つまり俺の体の半分だと言ってもいい。
手袋越しでもわかる絵斗の温もりに猿山は泣きそうになった。
そんな声も届かず、絵斗はずっと俺に向かって話をしている。あいつがしようとしている事がすぐにわかった。幼なじみの考えてることなんて一瞬で見抜いてしまう。
顔は見えない。今執事がどんな表情をしているのか、笑っているのか悲しんでいるのか、猿山はそこの点も引っかかった
だけどそれは一瞬の瞬間だった。
手を合わせた絵斗を見て猿山は今度こそ止めに入ろうと動こうとする
だけど自ら神社の外に出ることはできない。出れたとしても絵斗には触れられないし声も聞こえない。猿山は絶望の縁だった。
やめてと何回も叫んでも決して聞こえるわけない。声がガラガラになっても聞こえていない。
聞こえていたとしても俺よりも正義感が強かった絵斗は止まらないだろうと考えてしまった
猿山の時が止まった。それは絵斗の代償を承諾した執事に対してだ。
猿山は執事に怒りを覚えた。彼はわかってくれると思っていたのに。
執事の声はどうやら絵斗にも届いていたらしい。絵斗はその言葉を聞いて一瞬で笑顔になった。
猿山が叫んでも絵斗には届かない。それに対して猿山は何もない床をドンッと叩いた。
猿山は絵斗と話している執事を見る。そして目を見開いた
そして猿山は肝心なことを思い出した。こいつは鬼だ。鬼はどんだけ悲しんでも自分が楽しいと思ったことはやめない
それにずっと気づかなかった猿山は唇を噛んだ。鉄の味が口の中に広がる
声が枯れるまで叫んでも最後まで絵斗に猿山の声は届かなかった。
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目が覚めるとそこは神社の鳥居の前にいた。
記憶は全て残っている。
戻ってきてと言えば断るかのように神社の鈴がチリンと鳴った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。