電流ショックの後、ぼくは結局実験室には行かず家に帰り、サキの帰宅を心待ちにしていた。
サキのおかげでぼくは今こんなに幸せ。
殴られた時のサキの顔を思い出したら、
それさえも愛しいと思う気持ちが込み上げてきた。
気づけばサキは、困惑した様子でぼくのいる部屋の入り口に立っていた。
「ねえ……どうして笑っているの」
「わからない。でもぼく、さっきからずっと幸せな気持ちなんだ。」
サキの顔がさっと青ざめた。
そして、ごみくずを見るような目でぼくを見た。
「博士は私に嫌がらせをしているんだわ。」
こんなはずじゃなかったと嘆くサキを、ぼくは慰めようとして彼女に近づいた。
その結果、ぼくはサキに殴られた。
さっきぼくがサキを殴ったみたいに。
その衝撃からぼくが感じたのは、喜びだった。
「私はつらい過去と、その時の心の痛みを誰かと共有したかったのに。もうあなたはそんな私に同情してくれなくなったのね。」
ぼくは、ツライ、イタイという感情を想像することができなかった。
電気ショックを受ける前までは、そんなような陰性感情を理解できていたし、自分がそういう感情になったこともあったかもしれない。
「もう、なんでもいいや。」
サキは全てを諦めたように見えた。
ぼくはますます幸せな気持ちでいっぱいになった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。