ぼくは、生まれたその日にサキの家へ連れて行かれた。
その際、ぼくも人間とほぼ同じ体つきをしていることに気づいた。
なぜ"ほぼ"なのかというと、ぼくには胸の膨らみがなく、代わりに下半身に膨らみがある、という違いがあったからだ。
「ねえ、あなたって一体どんなふうに生活するの?食べる物は私たちと同じ?私と同じように寝たり起きたりするの?睡眠って必要?それから」
ぼくの前に座り込んだサキが、興奮しながら次々に話し始めた。
「質問はひとつずつでお願いします。」
「えー、何それ、冷たくない?」
「ぼくは機械ですので。」
その時、ぼくはサキのむすっとした気配を感じとった。
そして次の瞬間、紡ぐべき言葉が頭の中にはじき出された。
「ぼくはただ、サキと一緒に、同じ毎日を過ごしたいのです」
「……本当に?」
ぼくは大きく見開かれたサキの目を見て、背筋がぞくりとした。
不安と期待の炎が、目の奥で燃えているように見えたからだ。
「あなたが望む限り、ぼくはあなたの隣にいます」
ぼくはその瞳から目をそらすことができなかった。
そして、サキを怯えさせる何かから彼女を守ることが、ぼくの使命だと思った。
「ありがとう、君に会えてよかった。」
「それはよかったで」
「おおおお!笑った…!」
ほら、と言われ、ぼくは差し出された手鏡を見た。
鏡には、目尻が下がり、口角の上がったぼくが映っていた。
そこでぼくは、初めて自分の顔を見たことに気づき、この顔ならサキと同じくらいの年だと認識した。
「あ、そうそうついでにもう一つ、敬語使うのやめてほしいんだけど。」
「はい、分かりま…いや、分かった。」
ぼくは敬語禁止の命令をプログラムに取り込んだ。
ぼくはこの日、人間もぼくも、嬉しいと笑顔になるということを知った。
そして、ぼくはサキのために生きることを決意した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。