二人の拳が行き交った次の日、サキはまた、黙って家を出て行った。
朝起きたら、どの部屋を探してもサキの姿を見つけられなかった。
そしてその日から1週間が経とうとしていた
そんな中、ぼくは今までに体験したことのない新しい感情に出会った。
それは、孤独という感情だった。
コドクって何だろう。
ぼくはもう陰性感情を感知する機能を持ち合わせていなかったので、どのようにコドクという感情を捉えるべきなのか、ここ数日思い悩んでいた。
そして、ある日部屋に入り込んできた蝶をきっかけに、ぼくはその結論を出すことができた。
その蝶はふわりとぼくの前を横切って、風に誘われるようにまた窓の外へ出ていった。
ぼくの今の状況は、あの蝶と同じだと思った。
誰かに外出を規制されることもなく、どこまででも飛んでいける、あの蝶と。
つまりコドクとは、自由のこと…?
そうか……ぼくはずっと自由だったんだ!
ぼくは急に体が軽くなった気分になった。
自由だ!生まれて初めての自由だ!
まるで羽でも生えてきて、どこまででも飛んでいけるように思えた。
そしてこの大発見を、まずサキに知らせたくなった。
きっと今、サキも孤独だろうから。
いてもたってもいられなくなり、ぼくは部屋を飛び出して実験室へ向かった。
そこに行ったら、またサキに会えるような気がしたから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!