第5話
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空が夕日の色に染まる頃、2人の足音が家に近づいてくるのが聞こえた。
聴力レベルを最大値まで引き上げると、そこから話し声も聞こえてきた。
"サキ"という言葉が聞こえたような気がする。
話の内容から推測するに、彼女らはサキの同級生のようだ。
ぼくはサキを近くに呼んで、サキの額を自分の額にくっつけた。
「……よく聞いて、サキの同級生だよ。」
こうすれば、ぼくに聞こえる音をそのままサキも聞くことができる。
顔色を変え、そこから逃げ出そうとしたサキをぼくはとっさに抱きしめる。
側から見たら完全にラブシーンだ。
ぼくみたいな存在がこの先、そんな人間的な場面に置かれることなんてないくせに、変な妄想をしてしまった。
『サキちゃん、体調悪いのかな。』
ぼくの腕の中で、サキの体がびくりと動いた。
ぼくはそっと背中をさすってやる。
『私、ずっと席1人なんだけど。』
『まだ会ったことないもんね。』
『だから家まで来たんだけど…引かれるかな。』
ぼくは確信した。
学校には、サキに会いたがっている人間がいるということを。
だから、
「サキ、会って話をするべきだ。」
そして、お互いに理解し合える友達を作るんだ。
そうしたらきっと、サキはぼくがいなくても、一人で生きていける強さが手に入るはずだから。
そんなことを考えていたら、ぼくの人間そっくりの目から、あの日サキの頬に流れていたものと同じものが流れ落ちた。
悲しくないのに涙が出るのはどうしてだろう。
この日ぼくは、この感情を定義づけることができず、体のどこかに穴が開いたような感覚になった。