第112話

〔長尾謙杜〕頼みごと
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2020/11/15 06:15


時刻は午後6時。



11月ともなれば、この時間になれば、もう辺りはすっかり真っ暗で。



私以外誰もいない放課後の教室で、1人。



先生から頼まれた資料を整理していると…




「あなたせーんぱいっ!」



『っ…謙杜くん…!』



静かだった教室に響き渡る、もうすっかり聞きなれた、元気で明るい声。



声がした方を見てみれば、思った通り。



そこには、謙杜くんの姿があって。



「どうしたの??こんな時間に。部活は??」



「今日はもう終わった!あなた先輩こそ、こんな時間まで何してたんですか?」



『あー、ちょっと先生に頼まれちゃってさ。笑 資料片付けといてって言われたんやけど、全然終わらなくて。笑』



「えっ、先輩また引き受けたんですか!? もぉー、そんなの断ればええのにっ!」



『うーん、まぁ、それが出来れば悩まないんやけどね?笑』



「先輩はいい人過ぎなんやって!ちょっとぐらい断ったって、誰も怒らないのに…。」



『ふふっ、まぁしょうがないよ。誰かがやらなきゃなんだし…って、謙杜くん?何してるん??』



「んー、見ての通り、片付け?笑 あなた先輩だけじゃ、この量出来ひんやろうし!!」



『えっ、!?ええよ、そんなのっ!私が引き受けたんやし、私1人で…!!』



「えーからえーから!ほら、先輩っ!早くやらなきゃ、帰れないですよ?」



なんて、ニコニコしながらそう言って。



何故か楽しそーに、大量の資料の片付けを手伝ってくれる謙杜くん。



謙杜くんは、私より1つ年下の後輩。



そんな謙杜くんと、私が初めて会ったのは、今日みたいに。



昔から自分の気持ちを表に出すのが苦手で、頼みごとをされると断りきれない私が



先生に頼まれて、謙杜くんに勉強を教えてあげたことがきっかけで。



「あなた先輩…?…もしかして僕の顔、何かついてます?笑」



『へっ、?…あっ、ううんっ、!ついてへん!!なんっにも、ついてへん!!』



「そー?それならええけどっ!…っていうか、あなた先輩、焦りすぎ。笑 もしかして、僕に見惚れてたとか?笑」



『な、なな、何言ってるん謙杜くんっ…!あんまり先輩のことからかわないのっ!!』



「えー、でもあなた先輩、顔真っ赤やで?笑」



『き、気のせいやから…っ!ほらもう!!早く終わらせるよ…っ!』



「ふふっ、はぁ~い。笑」



内心、ひやってした。



…っていうか、絶対バレた。



"見惚れてた"



なんて、謙杜くんの言う通りだったから。



初めは人懐っこい後輩で、可愛いなぁ~って思うくらい、それぐらいの感覚で。



だけど、、。



何かと理由をつけては、私の後にくっついてきて、優しい笑顔を見せる謙杜くんに



いつの間にか、私は惹かれていた。



『…よしっ!完璧!!謙杜くん、そっちもそろそろ……っ、!?』



何とか大量にあった資料を片付け終えて、くるっと謙杜くんを振り返れば



そっと、優しくぎゅっと、握られてた手。



『あのっ、謙杜く、「あかん、、かった…?」



『あっ、いやっ、、そういう訳じゃ、、。』



ドキドキする。



謙杜くんに聞こえてしまいそうなくらい、心臓がうるさくて。



「あなた先輩。こっち向いて?」



『…無理…っ、やだっ、、。』



「えー、僕、先輩の顔みたいなぁ~。ほら、こっち見て?」



恥ずかしくて、まともに謙杜くんの顔なんか見れなくて。


下を向いて、何とか誤魔化そうとしてみたけれど



結局、謙杜くんには全部バレていて。



促されるままに、恐る恐る、顔を上げて謙杜くんの方を見てみると…



「ふふ、やぁーっとこっち、見てくれた。笑」



なんて、ニコッと微笑みながらそう言う謙杜くんに、胸が大きく高鳴って。



「あなた先輩。…もし今僕が、"好き"って言ったら、どうしますか?」



『…っ!!、、、バカっ、。』



「へへっ、先輩、また顔真っ赤になってる。笑 可愛いっ。」



『~~っ、!』



「ねぇ、あなた先輩。僕、期待してもええ?」



『っ、!、、…わかってるくせにっ、、。』



「うん。笑 でも、先輩の口から聞きたい。」



真っ直ぐと、私の事を見つめてくる謙杜くん。



その瞳から、目を離すことは出来なくて。




『…好きっ。謙杜くんのことが、好きっ、!』



「ふふっ。俺も、好きです。あなた先輩。」



精一杯、自分の想いを伝えれば



謙杜くんもその気持ちに応えるように、優しくぎゅっと、抱きしめてくれて。




「あなた先輩、ずっと好きでした!僕と、付き合ってください!」



『…はいっ、!』



なんて、お互いの気持ちを伝えあって、2人で笑い合って。



『…謙杜くん。大好きだよ。』



いつもニコニコ笑ってる、人懐っこくて可愛い後輩の謙杜くん。



そんな年下の謙杜くんは、この日から。



誰よりも大切で、大好きな



私の、頼れる"彼氏"。






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