第80話

〔道枝駿佑〕過保護なお兄ちゃん
9,222
2020/09/04 14:48


友達「あなた~!今日さ、駅前に新しく出来たカフェのパンケーキ、一緒に食べいかへん?」



『行く行く!!ちょうど私も行きたいと思ってた!』



友達「よし!じゃあ、決まり!…あ、でもあなた。本当に今日大丈夫なん?」



『えっ…?どうして?』



友達「だって、そろそろじゃない?笑 お迎えが来る時間。笑」



「あなた~。帰る準備出来たー?」



『…っ!!げぇっ、駿佑…!!』



「げぇってなんやねん!笑 せっかく迎えに来てやったのに! ほーら、早く帰るよ?」



『別に誰も迎えに来てくれなんて、頼んでないし!それに、今日は私寄り道して帰るから!』



「はぁ?そんなのダメに決まってるやろ!」



『たまにはええやん!いつも我慢してるんやから、それくらい…「ダーメ。」



「そんなに行きたいんやったら、今度俺が連れてってやるから。ほら、行くよ。」



『えっ、?わぁっ、ちょっ、駿佑…!!』




なんて、少し強引に私の手を取って



動揺している私の話になんか、聞く耳も持たずに、どんどんと家に向かって歩き出す駿佑。



そんな駿佑の突然の行動に、不覚にも私はどきっとして。




『駿佑…!ねぇ、駿佑っ!…手、痛い…。』



「えっ?あっ、ごめん…っ!!」




ぎゅっと力強く握られた手。



少し痛くなって、私がそう言えば



我に返ったように、慌てた様子で駿佑は、繋いでいた手をぱっ、と離す。



だけど自分から頼んだくせに、いざ、繋いでいた手を離されると、なんだか少し寂しくて。




「あなた…?ごめん、そんなに痛かった…??」



『…ううん、大丈夫だから。』




心配性の駿佑は、そんな私の小さな変化にも気づいて、申し訳なさそうに、そう言って。



もう一度、手を繋ぎたい。



そう、正直に言えたなら。



もしかしたら駿佑だって、こんなにも私のことを心配する事はないのかもしれない。



だけど…



『ねぇ、駿佑。私だってもう子供じゃないんだし、心配されなくたって1人で何でも出来るよ?』



「絶対嘘。笑 あなた、宿題だって俺が居ないと出来ひんやん。笑」



『そ、それはまた別の話…!っていうかそもそも私たち同い年なんだから…!』



「同い年とか、関係ないやん。」





『えっ…?』




「同い年でも、たとえ血が繋がってなくても。俺はあなたのお兄ちゃんなんやから。"妹"のことを心配するのは普通やろ?」




なんて、優しく微笑みながらそう言う駿佑。



駿佑の言う通り、私たちの関係は



ただの同級生でも、恋人同士でも。



何でもない。



駿佑は、親の再婚である日突然私に、出来た"お兄ちゃん"。



たとえ義理だったとしても、私たちの関係は



"兄妹"だから。




『なりたくてなった訳じゃないのに…っ。』



「しょうがないやん。今更そんな事言ったって、どうしようもないやろ?」




俯いていた私の顔を、覗き込むようにして。



駿佑は、私に視線を合わせてきて。



わかってる。今更色々言ったところで、何かが変わる訳じゃない。



でもずっと、好きだったから。



"兄妹"なんかになる前から、ずーっと私は



駿佑のことが、好きだったから。



"兄妹"になって、今まで以上に近くなった駿佑との距離。



駿佑に心配される度に、優しくされる度に。



嬉しいって思って、胸がドキドキして。



好きっていう気持ちは大きくなっていくだけなのに。




"兄妹"




駿佑が"お兄ちゃん"になったあの日から。



私の恋は、もう二度と叶うことはないと、決まってる。



もちろん、そんな私の気持ちなんて、駿佑は全くもって知らないし



この先、知ることだって、きっとない。



それに、駿佑に同じように想って貰えるだとか、付き合いたいだとか。



そんなことを、今更期待をしてる訳じゃない。



でも…



『わかんないよ…。駿佑に、私の気持ちなんて、わかんないよ…っ!!』




1番近くに、手の届く距離にいるはずなのに。



"好き"



そんなたった2文字の言葉さえも、伝えることの出来ないこの関係は



私にとって、凄くもどかしくて、苦しくて。



涙と共に、積み重なった想いが溢れだして。



何も悪くない駿佑に、私は八つ当たりをしてしまう。



『…ごめんっ、何でもない。少し頭冷やしたいから、やっぱり今日は「わかんなくなんかない!」



「わかんなくなんかない。俺にだってわかるよ、あなたの気持ち。」



『…っ、そんな訳…、ないじゃん。だって私は…。私はずっと、!』



「好きだから。あなたのことが。兄妹になる前から、ずーっと、好きだったから。」



『…っ!!』



「あなたの気持ちと、違った…?」




なんてそう言いながら、駿佑は私に向かって優しく微笑みかけてきて。




『…違く、ないっ。私もずっと、駿佑のこと好きだったから…!だけどっ…。』



「ねぇ、あなた。俺たち、付き合おう?」



『…っ!?な、何言ってるの、!駿佑だってわかってるんでしょ?私たちは…!』



「わかってる。ちゃんとわかってるよ、俺たちは兄妹だってこと。」



『だったら…!!』



「でも、好きなんだもん。何かあったらちゃんと、俺があなたのこと守るから。だから、付き合おう?」




そう言いながら、私に笑顔を向ける駿佑は、やっぱり私の大好きな駿佑で。



そんな駿佑の笑顔を見ていたら、兄妹とか、兄妹じゃないとか



何だかもう、そんなのどうでもよくなってきて。



『…うんっ。私も、駿佑と付き合いたい…!』




なんて、私がそう言えば。



『…わぁっ、!駿佑…!!』



そのまま私は、ぎゅーっと駿佑に抱き締められて。



「絶対俺が、あなたのこと幸せにする。」



『ふふ、うんっ!…駿佑、大好き。』



「俺も、大好きやで。」





ちょっと過保護なお兄ちゃん。



だけどそんな駿佑は、今日から私の



秘密の彼氏。






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