第33話

〔藤原丈一郎〕年の差
11,899
2020/07/22 14:06


母「そういえば、藤原さんちの丈一郎くん。今こっちに帰ってきてるみたいやで?」



『えっ!丈くん帰って来てるん!?もう、そういう事は早く言ってや!私、今から会いに行ってくる!!』




夏休み。



エアコンの効いた涼しい部屋で、少しだらけながら、学校から山ほど出された課題を片付けていると



突然舞い込んで来た、丈くんの話題。



その話を聞いて、すぐさま私が向かうのは、もちろん


小さい頃、毎日のように入り浸っていた、丈くんの家。




『丈くん!!』



「お、あなたやん!久しぶりやな!」




おばさんに家の中に入れてもらって、丈くんの部屋の扉を開けると



そこには、あの頃みたいに、私に向かって笑顔で話しかけてくる丈くんが居て。




『久しぶり!っていうか丈くん!!帰ってくる時は絶対教えてってあれだけ言ったのに!!』



「ごめんごめん。笑 本当は俺からあなたの所に行くつもりやったから、驚かせようと思ってさ!」





なんて、私の頭をぽんぽんしながらそう言う丈くん。



もともと丈くんは、隣の家に住んでいた私よりも4つ年上のお兄さん。



一人っ子だった私にとって、丈くんと遊ぶのは凄く楽しくて、本当のお兄ちゃんみたいで。



そんな"お兄ちゃん"な、丈くんのことが私は昔から大好きだったけど



私の丈くんに対する"好き"っていう気持ちは



いつの間にか、単純に"年上のお兄さん"に対する気持ちなんかじゃなくて



恋心に変わってた。




「…にしても、あなた大人っぽくなったな!」



『本当!?大人っぽく見える??』



「うん。笑 昔はもっと小さくて泣き虫で、すぐ俺に甘えてきたり可愛かったのになぁ~?笑」



『私だってもう高校生だもん!少しは成長するんですー!笑』




なんて、笑ってそうは言うけれど。



本当は、違う。高校生になったから、大人っぽくなったんじゃない。



丈くんに少しでも近づきたくて、少しでも大人になりたくて。



せめて格好だけでもって、大人の真似をしているだけ。



だけど、到底、そんな事じゃ丈くんに近づけるはずなんてある訳もなく。



どれだけ私が頑張ったって、丈くんは私よりも先にどんどん大人になっていって。



大人の丈くんからしたら、4つも年下の私はまだまだ子供で。



結局、いつまで経っても私は丈くんから子供扱いされたまま



恋愛対象としてすら、見ても貰えない。




「んー、まぁ、それもあるかもしれへんけど、なんかそういうんじゃない気がする。」



『えっ、?』



「あなたが綺麗になりすぎて、俺今すっごいドキドキしてるもん。」





丈くんはくしゃっとした笑顔で、そう言って。



本当はここで、丈くんのために頑張ってんだよ?って、そう言えば



少しは何か変わるのかもしれない。



だけど、臆病者の私はその事実は伝えらる勇気なんてなくて。




『私が年下だからって、あんまりからかわんといてや!笑 もし私が本気にしたらどうするん?笑』




なんて、わざと明るく振舞って、自分の気持ちを誤魔化して。



いくら見た目が大人っぽくなったって、中身はちっとも成長していない。



そんな自分に嫌気がさしてくる。



だけど…




「ええやん、本気にすれば。むしろ、俺はそっちの方が嬉しいけど?」



『…っ!な、何言ってるん丈くん…!!』




いきなり、全く予想もしていなかった言葉が丈くんから飛び出して。



私の頭の中は一気に真っ白になる。



とりあえず1回落ち着くために、私がこの状況を整理しようとしていると




『わぁっ、!ちょっ、丈くん…!』




そのまま腕をぐいっと引っ張られて、気づいた時には私は丈くんの腕の中。




「あーあ、本当はあなたが高校卒業するまでは我慢するはずやったのになぁ。」



『丈、くん…?』



「なぁ、あなた。もう気づいてるかもしれへんけど…。俺さ、ずっとあなたのことが好きやった。」



『…っ!』



「あなたの気持ちも、聞かせてくれへん?」



なんて、真っ直ぐ私の目を見て、そう言ってくる丈くん。



『私も、丈くんのことずっと好きだった…っ!』



「あなた、俺の彼女になってくれる?」



『うんっ…!!』




私がそう返事をすると、もう一度丈くんに優しく包み込まれて。



「俺今、すっごい幸せ。」



『私もっ!』




なんて、2人で抱きしめ合いながら笑いあって。



年上の"お兄さん"だった丈くんは



この日から、私の大切な彼氏になった。





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