第124話

〔西村拓哉〕好きな人の好きな人
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2020/12/17 09:11


放課後。



憂鬱な授業も終わって、浮かれた気分で、1人呑気に帰り支度をしていれば…



「…あなたっ!!」



『わぁっ、!拓哉…!どうしたん?そんなに焦って。笑』



バタバタと私の所へやって来たのは、同じクラスの西村拓哉くん。



「あなた、数学の宿題見せてくれへん?俺今日までやったの忘れてて、やってないねん!お願いっ!」



なんて、何事かと思ったら、真面目な顔してそう言ってくる拓哉。



『もぉー、またぁ?笑 この間言ってたやん!次は絶対忘れへんから見せて~って、笑』



「そこを何とかっ!こんな事頼めるのあなたしか居らんねん!だから、…なっ、?」



『っ、…わ、わかった、! 見せてあげるから…!』



「ほんま!?ありがとう、あなた~!!」



今度アイス奢ったるわ~、なんて飛びっきりの笑顔でそう言いながら



ご機嫌に私のノートを受け取る拓哉に



不覚にも、ドキっと、胸が高鳴って。



拓哉とは、1年生の時から同じクラスで



入学式の時、隣の席だったのがきっかけで、高校に入ってすぐに仲良くなった友達の1人。



もちろん、初めのうちは、ただ純粋に仲の良い男友達として、拓哉と一緒に居るのは楽しくて。



それ以上でもそれ以下でも。なんでもなかったはずなのに……



2年生になって、クラス替えをして。



他の女の子とも仲良くしている拓哉の姿を見た時、何だか胸がズキッてして。



"好き" なんだって



そう私が拓哉への気持ちを自覚したのは、その時で。



でもね、、?……わかってる。



拓哉が私のことを、友達としか思ってくれていないことも



私なんかじゃ、到底拓哉には釣り合わないってことも。



だからせめて、"友達" として、今は拓哉と一緒に居られるなら、それでいいって。



そう思ってた、…はずなんやけど、、、




「なぁ、あなた。」



『ん~??』



「…あなたってさ、!、、…やっぱり…、何でもない。」



『何、どうしたん?笑 あっ!もしかして、どこか答え間違ってた、、?』



「えっ、?…あっ、いや、!そういう訳じゃないんやけど、、。」



そう言って、何かを言おうとしたけれど、そんなに言いづらいことだったのか



必死に誤魔化そうとする拓哉に、中途半端にはぐらかされては、こっちだって、気になって。



しつこく問い詰めてみれば…、、、




「あなたってさ、…好きな人とか、、居るん…?」



『へっ、?』



「…あの、ほらっ!あなたに告白したやつが振られたって噂になってたからっ! だから、、好きな人でも居るのかな~って…?」



なんて、首をこてっと横に傾けながら、少ーし遠慮したように、拓哉がそう言って。




『…居るっ、、よ? …好きな人。…拓哉は、、?』



考える前に、自然と口から出ていたその言葉。



もしこれで拓哉が、"好きな人が居る"って言ったら、傷つくのは自分だって、わかってるのに…。



ゆっくりと顔をあげて、拓哉の方を見つめれば…



「…うんっ、俺も居るっ。…好きな人。」



『…そっ、か、、!そうだよねっ! 拓哉に好かれる女の子とか、絶対可愛いやろうな~、、!』



「ふはっ、何やそれ。笑 …まぁ、でも。実際、可愛ええよ? ちょっと鈍感やけど。笑 全然俺の気持ちに気づいてくれないねんっ、笑」



なんて、ちょっと困ったように、でも嬉しそうに。



"好きな人" の話をする拓哉に、これ以上は、私の方が耐えられなくて。



『そう、、なんだねっ、!……あっ、そういえば私、この後用事あるんやった、!ノートは明日でええからっ、!…じゃあねっ…!』




なんて、我ながらバレバレで、下手すぎる嘘をつきながら、急いでこの場を離れようとした、






…その時だった。



「待って、!!」



『…っ!?、…えっ、ちょっ…!!、拓哉、!?』




突然、ぐいっと後ろから、拓哉に腕を掴まれて、元いた場所まで引き戻されたかと思えば



気付いた時には、私はぎゅっと、拓哉に抱き締められていて。



『…ね、あのっ、拓哉…! こんなの誰かに見られたら、勘違いされちゃうからっ、!』



「んー、ええやんっ。勘違いさせとけば?」



『で、でも…!拓哉、好きな人居るんでしょ?だったら、、!』



「はぁっ…。ほんまにっ、笑 一体どこまであなたは鈍感なん?笑」



『えっ、、?……、っ!!』



拓哉の言葉の意味を私が理解する前に、拓哉の顔が近づいてきて。



そのまま、そっと優しく重なり合った唇。




『……っ、、。』




「ふふっ笑 あなたの顔真っ赤。笑 …でも、これでわかったやろ? 俺結構アピールしてたつもりだったんやけどなぁ~笑」



なんて、私の顔を覗き込むように、優しく微笑みながら、拓哉がそう言って。



「……好きっ。好きだよ、あなた。」



『…っ、!』



「絶対あなたのこと、大切にするから。…だから俺と、、付き合って下さい…っ!」



真っ直ぐと、そう想いを伝えてくれる拓哉に



…こんなの、夢みたいで、嬉しくて、、。



『…私も、、拓哉のことが好きっ、!…だから、私で良ければお願いしま……わぁっ、!、、拓哉…っ!』



「ごめんっ。嬉しすぎて、我慢出来ひんかった。笑」



私も自分の気持ちを伝えれば、全部言い終わる前に



これでもかってぐらい、ぎゅーっと拓哉に抱き締められて。




「あなた。ほんっまに、大好きやでっ。」



『…ふふっ、うんっ。笑 私も好きだよ、拓哉。』




なんて、そう言って。



2人っきりの、放課後の教室。



彼氏になった拓哉と、2度目の "キス" をしたのは



下校時刻の10分前。








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