第8話

〔岡崎彪太郎〕卒業式
13,859
2020/06/28 08:07


春。それは、出会いと別れの季節。



少しカラッとした乾いた風に、雲ひとつない青空。



グラウンドには、この日を待ちわびていたと言わんばかりに綺麗に咲き誇った桜の木々。



私は今日、高校を卒業する。




『ここに来るのも、今日で最後…か…。』




グラウンドの隅っこの方に生えている、1本の桜の木。



この木の下は、私にとって思い出の場所。




「あなた先輩…!」




ふと、誰かに名前を呼ばれて振り返ると



ニコニコしながら、こちらに向かって走ってくる1人の男の子。




『こたくんっ…!!』



「やっぱり。笑 あなた先輩ならここに居るかな~って思ってました。笑」




私がマネージャーをしていたサッカー部の1つ年下の後輩、岡崎彪太郎くん。



私が2年間想いを寄せて来た…、片想いの相手。





「あなた先輩、本当にここ好きですよね。笑」



『まあ、私の青春全部ここにあるからね!笑』




毎日部活が終わったあと、必ずグラウンドに残って自主練をしていたこたくん。



そんなこたくんの事をこの木の下から見ているのが、私の毎日の日課で



ここから見えるこたくんの頑張っている姿が、私は1番好きだった。



でも…、それも今日で終わり。





『3年間、あっという間やったなぁ…。』



「これでもう…、あなた先輩と会えなくなっちゃうんですね…。」



『そう、だね…。たまには、顔出しに来てもええかな…?』



「もちろんです!楽しみに待ってます!」




そう言って、笑顔を見せるこたくんは



やっぱり私が大好きなこたくんで。



もう、簡単に会えなくなってしまうんだって思うと切なくて。



今にも溢れ出てしまいそうな涙を、私が必死に堪えていると



『うわぁっ…!』




突然、強い風が吹いて、桜の木が揺れ花びらが舞い上がる。


グラウンドに鮮やかなピンクの桜が舞う光景は、凄く綺麗で




『ねぇ、こたくん今の見た!?めっちゃ綺麗やったよね!!』



なんて、少し興奮気味に私がそう言うと




「先輩、髪に花びら付いちゃってますよ。笑」



『えっ、?…っ!』



「はい、取れた。笑」



『あり、がとう…。』




髪に付いた花びらを取ってくれた、こたくんとの距離が一気に近くなって



恥ずかしさのあまり、私の顔はみるみるうちに赤くなっていく。



そんな私の様子にこたくんも、どうやら気づいたようで



何となく、お互い気まづくて。



そんな雰囲気に、居たたまれなくなって




『じゃ、じゃあそろそろ私行かないと…!
こたくん、今までありがとう。これからも、頑張ってね…!応援してるから。』




最後にそれだけ伝えて、逃げるように私がグラウンドを離れようとすると…





「あなた先輩!!待って…!!」



『…っ!こた、くん…?』





後ろから、こたくんに腕を掴まれて私はその場に引き止められる。




「まだ言いたいこと、全部言えてへんから。」



『言いたいこと…?』



「あなた先輩。1年の時からずっと、好きでした…!このまま先輩と離れるなんて、僕嫌です…。だから、僕と付き合ってください…!!」




そう言って、こたくんは深く頭を下げなら手を差し出してきて。




まさか、告白されるなんて思っていなかった私は、驚きと嬉しさとで頭が真っ白になって。




「あなた先輩、返事…聞かせてくれませんか…?」




こたくんにそう言われて、頭の中を必死に整理して。





『私もこたくんのことずっと好きでした…!こんな私で良ければお願いします…!』




そう言って、私は差し出されたこたくんの手を取った。




春。それは、出会いと別れの季節。



私たちの恋は、まだ始まったばかり。







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