第144話

〔西村拓哉〕バレンタインデー
6,922
2021/02/14 08:32



『…はぁ、、、どうしよう、これっ。』




2月14日。バレンタイン。



女の子にとっては、年に一度の一大イベントで。



告白…なんて、そんな勇気はないけれど



せめて、義理チョコだって嘘ついて、渡すぐらいならって



私も、…初めてチョコレートを作ってみたけど



結局渡せないまま、気がつけば、もう放課後になっていて…。




友達「あなた~っ!!」



『っ!!……なんだ、、もぉー、びっくりさせないでよ!笑』



友達「ちょっとー、なんだって何よ!笑 あっ、もしかして、拓哉くんだと思った?笑」



『なっ、何言って…!! 別にそういう訳じゃないからっ!』



友達「もぉー、まだそんな事言ってるん?笑 拓哉くんモテるんだから、早くしないと他の人に取られちゃうよ~?笑」



『…それは、、っ!!』



友達「まぁ、頑張って!!笑 私は彼氏が待ってるからっ! あ、結果は明日ちゃんと聞かせてね~!!」




わかってる。



隣の席になった事がきっかけで、仲良くなった拓哉くんは



カッコよくて、スポーツ万能で。おまけに女の子からも人気やから。



早く渡さないと、もしかしたら誰かと付き合っちゃうかもしれないって。



…そう、わかってるけど、、。



渡す勇気がない…っていうのも、もちろんあるよ?



でも、そもそも拓哉くんは、朝から色んな女の子に呼び出されてばっかりだったから



渡すタイミングさえ、見つからなくて。



『…帰ろ、、っ。』



もう、拓哉くんに渡すのは諦めて、このまま家に帰って自分で食べようかな



なんてそう思って、頑張って作ったチョコを片手に、私が下駄箱へと向かえば…




「あっ、あなたちゃん!!やっと来た~!笑」



『…っ、!、た、拓哉くん…っ!!』




そこには、ニコニコしながら、沢山のチョコを持っている拓哉くんが居て。



咄嗟に私も、持っていたチョコを隠してみたけれど…



「あ、あなたちゃん。それもしかして、チョコ?笑 好きな人にあげるとか!?」



『…え、?あっ、いや! これはそういうんじゃなくて…っ!、拓哉くんこそ、チョコいっぱい貰ったんやろ…?』



なんて、ニヤニヤしている拓哉くんには、きっと



図星をつかれて、私が話を誤魔化そうとしたことまでも、ぜーんぶバレていて。



「まぁー、俺モテるから?笑 」



『何それー!笑 もしかして自慢?笑』



「ふふっ、羨ましいしいやろっ!! 欲しいって言ってもあげへんで?笑」



『別に~?笑 欲しいなんて一言も言ってないもんっ! それに、そんなにチョコばっかり食べたら絶対太るだけやし?笑』



「えっ、あなたちゃんいつもあんなに食べてるくせに、今更太るとか気にしてるん?笑」



『ちょっと拓哉くん、それどーゆー意味やねんっ!!』



「うそうそ!冗談やって!笑 …っていうか、あなたちゃんは俺にチョコくれないん?」



『っ、!…だ、だって…! 私のなんか無くたって、拓哉くんはもういっぱい貰ってるでしょ!…それとも、まだ貰い足りないん?笑』




ほんの冗談。



拓哉くんの言葉に動揺している自分がバレないように。



ほんのちょっと、揶揄うつもりのだけだったのに、、、。



「だって俺、、好きな人からはチョコ貰えなかったんやもんっ。」



『…っ、、。』




なんて、寂しそうな表情をしながら、そう言う拓哉くん。



"好きな人"



そう、、だよね。



そりゃあ、私が拓哉くんの事を好きなのと同じように、拓哉くんにだって…、好きな人ぐらい、、。



…わかってたはずなのに、拓哉くんの口から直接聞く、"好きな人" なんて言葉は



想像していた以上に、私の心にずっしりとのしかかって、一気に現実に引き戻されたような気がして。



『…ごめん拓哉くんっ、私もう行かなきゃ…っ、!』



何だかいたたまれなくなって、私がこの場を離れようとした







…その時だった。



「待って…!」



『…っ、!!』



「…あのっ、、これ…!!」



ぐいっと腕を掴まれて、引き止められたかと思えば



次の瞬間、目の前に差し出されたのは、綺麗にラッピングされた小さな箱で。



『…えっ、あのっ、、…拓哉くん、、?』



「あなたちゃん、知ってた…?海外では、バレンタインは男の人が好きな人にプレゼントするんやで?」



なんて。



突然の出来事に、訳もわからず私が戸惑っていれば



少し照れくさそうに、拓哉くんがそう言って。



「あなたちゃん、好きやで。…返事は今すぐじゃなくてええから、ゆっくり考え…、って、えっ、あなたちゃん!?」



"好き" だなんて。



まさか、拓哉くんも同じ気持ちで居てくれたなんて、思ってもなくて。



「え、あ、どうしよう…、、。そんなに俺に告白されるの嫌やった、、?」



なんて、嬉しさのあまり、涙が止まらない私を見て



焦っている拓哉くんでさえも、何だかすっごく愛おしくて。



「…っ、! あなたちゃん、、?」



『…私も、拓哉くんのことが好きっ。』



ぎゅっと、拓哉くんの事を抱き締めながら、私がそう言えば



一瞬、驚いた表情をした拓哉くんも、直ぐに優しく微笑んで、同じように抱き締め返してくれて。



「あなたちゃん、ずっと好きでした。…俺と、付き合って下さい!」



『ふふっ、…うんっ。笑 私でよければお願いしますっ!』



なんて、お互いの気持ちを確かめあった後は、2人で笑いあって。



もう一度、ぎゅーっと抱き締め合って。




「…じゃぁ、帰ろっか、?」



『うんっ、!』




なんて、初めて一緒に帰った帰り道。



夕焼けに色に染まった空の下。



私たちは、どんなチョコレートよりも



甘く優しい、キスをした。








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