第98話

〔西村拓哉〕年上のお姉さん
8,444
2020/10/13 12:46


「ただいま~」



時刻は午後5時。



退屈だった授業も終わって、いつも通り。



特にどこかへ寄り道をする訳でもなく、俺が真っ直ぐ自分の家へと帰ると…




『おかえり、拓哉!』



「…っ!?」



『ふふ、びっくりした?笑』



「びっくりも何も、!あなたちゃん、なんでこんな所に居るん!?大学は…!?」



『ふふ、拓哉驚きすぎ。笑 ちょうど大学休みだったから、久しぶりにこっちに帰ってきただけ。笑』



なんて、俺の前には、にこにこしながらそう言うあなたちゃんが居て。



『あ、もしかして、…迷惑、だった…?久しぶりに拓哉に会いたいな~って思ったんやけど…。』



「ううん、全然…!!俺やって、あなたちゃんに会いたかったし!…あ、そうだ…!ここじゃあれやし、俺の部屋とか…、来る?」



『…うんっ…!』



あなたちゃんは、元々俺より3つ年上で、近所に住んでいたお姉さん。



親同士も仲が良かったから、小さい頃は、よく一緒に遊んだり。



あの頃の俺にとって、あなたちゃんは本当のお姉ちゃんみたいな、家族みたいな。



それくらい近くて、大切で、大好きな存在で。



大きくなればなるほど、あなたちゃんと一緒にいる時間が長くなればなるほど



そんな俺のあなたちゃんに対する気持ちは



"家族"に対する"好き"って気持ちから



いつの間にか、1人の"女の子"に対して、"恋愛対象"としての



"好き"って気持ちに変わっていた。



…だけど、、。



『…私ね、なんか…安心した!』



「へっ、?」



『拓哉が、昔とあんまり変わってなくて。あの頃の、可愛い拓哉のままだってわかってさ!笑』



「ちょっと、あなたちゃん!!それどーゆー意味や!笑 俺やってもう高校生やし、少しは大人になったんですー。笑」



『えー、絶対そんな事ないって!!笑 私からしたら、拓哉はまだまだ子供やもんっ!笑』



「へー、そんなこと言っていいんや!笑…じゃあ、あなたちゃんは、おばさん・・・・、やな!笑」



『あ!言ったな!笑 可愛い可愛いお姉様、の間違いやろ!笑』



「わぁっ、ちょっ…!あなたちゃんやめてや!笑」



『拓哉が間違えを認めるまで、やめませんー!笑』



「わかったわかった、認めるから!笑 じょーだんやからっ!笑」



なんて、2人で冗談を言い合いながら



あなたちゃんは、楽しそうに俺の髪をわしゃわしゃって、してきて。



…わかってる。



どんなに俺があなたちゃんの事を"好き"って思ったとしても



あなたちゃんに、少しでも近づけるようにって、大人っぽくなろうと努力しても。



俺が年下であることは、変わらない。



あなたちゃんにとっての俺は、いつまでも子供のまま



恋愛対象として見てもらう事さえも、出来なくて。




『拓哉…?』



「…ねぇ、あなたちゃん。…何か嫌なこととか、あったん?」



『えっ…?』



「辛いんやろ?ええよ、別に。俺の前では、そんなに無理して強がんなくても。」



『っ、、。』




だけど…、俺やって。



もうあなたちゃんが思ってるほど、子供じゃない。



ずっと近くで見てきてたんや。



好きな人に、…あなたちゃんに。



何かがあったことぐらい、あなたちゃんの様子を見れば、俺にだってすぐわかる。




『やっぱり…、拓哉にはバレちゃったか…っ、。笑 ……私ね?…彼氏に、振られちゃった、、。』



「っ、!」



『自分では、これでもちゃんといい彼女してるつもりやったんだけど…って、こんな事拓哉に話すことじゃないよね!…ごめん、やっぱり今の忘れて…!』




なんて、あなたちゃんはそう明るく言っているけど



俺からしたら、そんなあなたちゃんの表情は、どこか切なくて、辛そうで。



俺やったら、絶対あなたちゃんに、そんな顔させへんのに。



俺やったら…、絶対。



あなたちゃんに辛い思いなんか、させへんのに。



なんてそう思ったら、考えるよりも先に、体が勝手に動いてて。




『…っ!?…ちょっ、拓哉!何してっ…!』



「俺にすればええやん。」



『…っ!』



「俺やったら、今みたいにあなたちゃんの事傷つけへんし、絶対大切にする。だから、俺にすればええやん。」




ぎゅっと、あなたちゃんの事を抱きしめながら、初めて口にした。



あなたちゃんへの、自分の想い。



だけど…。



『なっ、何言ってる拓哉…!あ、もしかして私の事励まそうとしてくれてるん?それやったら、大丈夫…!私ならもう全然平気やし…!!』




なんて、やっぱりあなたちゃんは俺の事なんか、全然相手にしてくれなくて。



『そもそも!!あんまり大人の事をからかわないの! そんな冗談、もし私が本気にしたら…「冗談なんかじゃない!」



「冗談なんかじゃないよ。俺はずっと、本気であなたちゃんの事が…!!」




"あなたちゃんのことが好き"



そう伝えたいはずなのに。



やっぱり、まだまだ俺が子供だから?年下だから?



いざ、あなたちゃんを目の前すると、言葉に詰まって



"好き"って。そう、上手く伝えることが出来なくて。



自分の気持ちさえも、伝えることが出来ない自分の不甲斐なさで、俺が押し潰されそうになっていれば…




「…っ、!?…あなたちゃん、、?」



『…拓哉のバカっ。誰のせいで私が振られたと思ってるん?』



「へっ、?」



なんて、ぎゅっと俺の服の袖を掴んで来たかと思ったら、突然。



あなたちゃんは、俺に向かってそう言ってきて。



『あーあ!!本当は諦めるはずやったのになぁ~。大学だって、わざわざ家から通えへんところ選んで、彼氏まで作ったのに。ほんまに私、バカみたい。笑』



「えっ、えっ、、?それって、もしかして…。」



『ふふっ、うん。笑 私は拓哉が、好き。』



「っ、!」



『ずーっとずっと好きだった。でも拓哉年下やし、モテるやろ?だから、拓哉には私なんかよりももっと、、!?』



「そんな理由で、勝手に俺から離れて行かんでや。俺は、あなたちゃんじゃなきゃ嫌なの!!」



『…っ、。』



「ねぇ、あなたちゃん。俺も、ずっとあなたちゃんのことが好きやった。だから俺の、彼女になってくれますか?」



なんて勇気を振り絞って、俺がそう言えば




『うんっ、うん…!お願いします!』




ぎゅーっと、俺に抱きつきながら、あなたちゃんも。嬉しそうにそう答えてくれて。




「やばい…っ。俺今、めっちゃ幸せ。笑」



『私も。笑 すーっごい幸せ!笑』




なんて、2人で幸せを噛み締めながら、顔を見合わせて、笑い合って。



「俺絶対、あなたちゃんの事、大切にするから。」



『ふふっ、うん。笑』



「あなたちゃん、大好きやで。」



『私も、拓哉のこと大好きだよ。』




家族みたいに大切で、ずっとずっと。



大好きだった、年上のあなたちゃんは



この日。



俺の何よりも大切で、大好きな。



"彼女" になった。








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