第106話

〔西村拓哉〕罰ゲーム
8,821
2020/11/01 07:59


"キーンコーンカーンコーン"



「起立!礼。ありがとうございました!!」



「「ありがとうございました!!」」




金曜日。



授業の終わりを告げるチャイムがなれば、待ちに待った放課後で。



週末のせいなのか、教室中が、ざわざわとしていて、少し浮かれた空気が流れる中。



いつも通り、私が1人、帰る準備をしていると…




「あなたちゃん!!」



『っ!!…た、拓哉くん…!』



「帰る準備もう出来た?一緒に帰ろっ!」



なんて、ニコニコしながら、私に向かってそう言ってくる拓哉くんの姿は


何だかとっても、眩しくて。



「…あなたちゃん、、?もしかして俺と帰るの嫌…、やった…?」



そんな拓哉くんに、私がぼーっと見惚れていれば


私の顔を覗き込むようにして、少し心配そうに、そう言う拓哉くん。



『えっ、?…あっ!ううん、、!全然嫌とか、そういう訳じゃないから…っ、!』



「そ?それならええんやけど!…じゃあ、そろそろ帰ろっか!」



なんて、誤解を解けば、ぱぁっと嬉しそうな顔をして


どこか楽しそうに、私の手を取って歩き出す拓哉くんに



ドキッとして、胸が高鳴って。



拓哉くんは、勉強も運動もルックスも、何でも完璧で。


取り柄なんて1つもなくて、友達だって数える程しかいない私とは、まるで正反対の学校中の人気者。



そんな拓哉くんとこうやって、一緒に帰れているだけだって、私にとっては、奇跡のような話なのに…



「あっ!そうだ!!明日の"デート"なんやけど、遊園地とか…、行かへん??」



自分でも、未だに信じられへん。



カッコよくて、人気者の拓哉くんが、私の"彼氏"だなんて。



…でもね?、本当は私だって、とっくの昔に気づいてた。



告白してくれたのは、拓哉くんの方。



でもそれは、…私のことが好きだからじゃない。



単なる、"罰ゲーム"だから。



クラスの男子の中でゲームをして、負けた人が、クラス1冴えない私に告白をする。



そのゲームで、たまたま負けてしまったのが拓哉くんだっただけ。



わかってた。そんなことわかってたけど…、ずっと好きだったから。



嘘でもいいから、見ていただけで遠い存在だった拓哉くんに、告白して貰えたことが嬉しくて。



少しでもいいから、拓哉くんの彼女になりたくて。



…だけど、、、



『…拓哉くん。そんなに無理しなくても…、ええよ…?』



「…えっ、?」



『楽しかったから。…少しだけだったけど、拓哉くんと付き合えて。私、すっごい幸せだった。』



拓哉くんに名前を呼ばれる度に、優しくされる度に。



胸の奥が高鳴って、嬉しくて。



だけど、それと同じくらい。



拓哉くんに優しくされればされるほど、苦しくなる。



たとえ形の上では付き合っていると言ったって、結局は、私の片想い。



振らないでくれているのも、きっと。



全部全部、私を傷つけないようにする為の、拓哉くんの優しさなだけやから。



だから、、、



『拓哉くん、罰ゲームはもう終わり。…別れよっかっ、!…私たち。』



「…っ!!…なん、、で……。」



『…じゃあ…、ね。バイバイっ、拓哉くん…。』




これ以上は、きっと自分が傷つくだけで



付き合っていたって、私にとっても、拓哉くんにとっても。



いい事なんて、1つもない。



だったらいっその事。振られる未来が見えているのなら。



自分から別れを告げた方が、楽だから。



なんて、そう思って。



今にも溢れてしまいそうな涙を、必死に堪えながら



拓哉くんの前から、居なくなる



………はずだったのに、、、、



「待って…!!」



『…っ、!?』



少し歩き出した所で、ぐっと、後ろから拓哉くんに腕を掴まれて、引き留められて。



「あの…っ、ごめん…!!俺罰ゲームとか、あなたちゃんが気づいてたなんて、知らなくて…、っ。」



なんて、少し焦ったように、そう言う拓哉くん。



『そんな…、別に…「でも俺…!!」』



「本気で、あなたちゃんの事好きやから…っ!!」



『…っ、!』



「確かに、あれは罰ゲームだったかもしれないけど、でもっ、!もっと前から俺は、あなたちゃんのこと、好きだったからっ、!」



「…だから、罰ゲームだとしても、他のやつがあなたちゃんに告白とか、して欲しくなくて…。」



『…っ、、。』



「こんなの、言い訳みたいで信じて貰えるなんて思ってないけど、…でも全部本当やねん。ずっと俺は、あなたちゃんのこと好きやったから。」




そう言いながら、拓哉くんは真っ直ぐと私の方を見つめてきて。



…ずっと。私は、拓哉くんのことだけを見てきたから。



だから、拓哉くんが言ってる事が、嘘じゃなくて、本気だってことぐらい、すぐわかる。



もしそうだったら…。拓哉くんが私のことを本気で好きになってくれたらいいのに…って



そう何度も願っていた事が、本当に叶っていたなんて



とてもじゃないけど、すぐには信じられなくて。



驚きと喜びが、一気にぶわぁって込み上げてきて…



「…えっ、!…ご、ごめん…!こんなの今更嫌…、やったよな…!やっぱり『違うの…っ、!』



『…あのっ、違くてっ。泣いてるのは、嬉しくて…。だからその、嫌とかじゃなく……っ!!、っ、、。』



溢れる涙の意味を、拓哉くんにだけは誤解されたくなくて。



私が必死に、説明しようとしていれば



突然。唇に当たった、柔らかくて、優しい感触。



『…っ、、。』



それがキスだったんだと気づいた時には、私は拓哉くんに、抱きしめられていて。



「あなたちゃん。ほんまにずっと、大好きやった。だから、今度は罰ゲームなんかじゃくて、ちゃんと。俺と、付き合って下さい…!!」



『…うんっ、。はいっ…!私でよければ、お願いします…!』




なんてそう言いながら、私が拓哉くんのことを抱きしめ返せば



拓哉くんも。今まで以上に、ぎゅーっと抱きしめてくれて。




『拓哉くん…っ。』



「ん??」



『……好き…っ、、。大好きっ。』



「俺も。絶対あなたちゃんのこと、大切にするからっ。」



『ふふ、うんっ。』



なんて、お互いの顔を見合いながら、2人で笑いあって。



この日。



ずっと、私の片想いのはずだった拓哉くんは



片想いでも、"罰ゲーム"なんかでもなくて。



本当の、私の大好きで、大切な"彼氏"になった。







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