第104話

〔浮所飛貴〕幼馴染の壁
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2020/10/27 08:40


『飛貴。』



「………。」



『ねぇー、ひーくん?ひだちゃんっ!ひーだーかーくん!!』



「………。」



『もぉ、飛貴!!無視しないでよ!!さっきからずっと呼んでるじゃん!!』



「………。」



『……いいもんっ、飛貴は私よりも勉強の方が大事なんだっ……。』




休日。



こんなやり取りをし始めてから、もうかれこれ30分。



さっきまでずーっと俺の名前を呼んでいたはずが



俺が返事をしなかったせいなのか、むすっとしながら



俺の部屋のベッドの上に、ごろーんってしているあなた。



「…ねぇ、何してるの?笑 ここ、俺の部屋なんだけど。」



『んー、だって飛貴が相手してくれないから、つまらないんだもんっ!』



なんて、少し不貞腐れながらそう言って、まるで自分の部屋にでもいるかのように



徐ろにベッド脇に置いてある漫画に手を伸ばすあなたとは



小さい頃からの腐れ縁。いわゆる、幼馴染っていうやつで。



周りの友達には、仲のいい幼馴染がいるなんて羨ましい、とかよく言われるけれど



俺にとっては、"幼馴染"なんて関係は、ものすっごく厄介で。



『…飛貴??なんか顔赤いけど、大丈夫…?』



「…っ、何でもないから、、っ、!」



わかってる。



あなたにとって俺は、所詮昔からずーっと一緒にいる、ただの仲の良い幼馴染に過ぎなくて。



あなたが俺を男としてなんか、全くもって見てくれて居ないことも。



今だってそう。



一歩間違えれば、見えてしまいそうなぐらいダボダボな服を着て



何も気にする事なく、人のベッドの上でくつろいでいるあなたが



俺を、男として意識しているはずがない。




『そう…?それならいいんだけどさっ。…あ!そうだ飛貴!この間私が貸した漫画、ちゃんと読んでくれた?』



「えっ、?あー、…うん。読んだよ?読んだ!」



『嘘!!その反応は絶対読んでない!もぉー、これだけは絶対読んでって言ったのにっ!』




だけど…



いくら"幼馴染"だと言っても俺だって、どこにでもいる普通の男子高校生。



女の子が、…ましてや"好きな人"が、そんな無防備すぎる格好で自分の部屋にいるなんて



こっちとしては、ただでさえ気が気じゃないっていうのに、、、



『もぉっ!こんなんだから飛貴はいつになっても、彼女出来ないんだからね!』




なんて、そんな俺の気持ちなんか、全くお構いなしに



いつも通り、呑気にくつろぎながらそう言ってくるあなたに



少しだけ、腹が立って。



『そもそも、飛貴はモテるんだから!少ーし本気を出せば彼女ぐらい…「あなたは、少し油断し過ぎだと思うけど?」



『…えっ、?……っ!?、ちょっ、待っ…、飛貴…!』



「バーカ。何本気にしてんだよ。笑 する訳ないだろ?俺が、あなたにキスなんて。」



「…なっ、も、もぉー!!いきなりからかわないでよっ!ビックリするでしょ…!!」




ぐいーっと顔を近づけてみれば、焦ったようにそう言って



みるみるうちに真っ赤になっていく、あなたの顔。




「…これでわかっただろ?あなたは油断しすぎなの!いくら幼馴染でも、俺だって一応男なんだから、これくらい簡単に出来るよ?」



『…っ、、。』



「ほら、あなた。わかったなら、今日はもう…」



なんて、そんな言葉を並べて平然を装って。



本当は俺の方が、あなたよりもこの状況に焦ってるとか、かっこ悪い。



かっこ悪いけど…、これ以上一緒にいたら、どこかで耐えきれなくなって



きっと、俺の気持ちはバレてしまうから。



だから、気持ちを落ち着かせるために、一旦あなたから離れようと思ったのに…



「……っ、!?、、…あなた…?」



俺が部屋から出ていこうとすれば、ぎゅっと、服の袖を掴むようにして


あなたに、引き止められて。



『……かなら…、、』



「えっ、?」



『…飛貴なら、いいもんっ、、。』



「…っ!!」



なんて、真っ赤な顔をしたあなたは、少ーし恥ずかしそうに、でもはっきりと。



俺に向かって、そう言ってきて。




「……ほんとにっ、、。…俺が彼女出来ないの、誰のせいだよっ。」



『…へっ、…?』



「好き。」



『…っ、!』



「好きだよ、あなた。小さい頃からずーっと。だから、"幼馴染"なんかじゃなくて、"彼女"として、俺の隣にいて欲しい。……ダメ…、かな?」



多分今の俺は、緊張で声も手も震えてて、余裕なんか、全然なくて。



世界一かっこ悪いと思う。



だけど、この気持ちだけは…。あなたが好きって気持ちだけは、嘘なんかじゃなくて。



真っ直ぐと、あなたを見つめるように、俺がそう言えば…



『…っ、ううんっ、ダメなんかじゃないっ。私もずっと、飛貴の事好きだった…!だから、飛貴の彼女になりたい…っ!』



なんて、あなたも。俺の気持ちに応えるように、そう返事をしてくれて。



そんなあなたの姿は、すっごくすっごく可愛くて。好きって気持ちが溢れてきて。



『…わぁっ、!飛貴、、!』



堪らなくなって、ぐいっとあなたを自分の方へと引き寄せて



そのままぎゅっと、抱きしめて。



「…やばい…っ。俺今、めっちゃ幸せ。」



『私も。すっごい幸せ!!笑』



なんて、お互いの顔を見合わせながら、2人で笑いあって。



「…あなた。大好き。これからもずっと、一緒に居てね?」



『ふふっ、うんっ。私も大好きだよ、飛貴。』




ずっとずっと大好きだった、幼馴染のあなた。



これからは、"幼馴染"として、じゃなくて、"彼氏"として。



俺が絶対守るから。



これからもずーっと、大好きだよ。





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