第65話

〔西村拓哉〕マネージャー
10,112
2020/08/21 09:06


『拓哉くん、お疲れ様。はい、これ!タオルとドリンク。』



「ん、あなたありがとう!」



『ふふ、うん。笑』




放課後。



辺りは既に薄暗くなっていて、グラウンドの街灯が照らす光の下で



1人、最後まで残って自主練をしていた拓哉くん。




「あなた、いつもごめんな?俺の練習に付き合わせちゃって…。」



『ううん、大丈夫だよ。マネージャーとして選手を支えるのは、当然のことだし!』



「あなた、それよく言ってるよな。笑 でも正直俺も、あなたが居てくれると助かる、ありがとう。」



『うん。笑 それに私、拓哉くんが一生懸命練習してる所見るの好きだし。』



「えっ、?」



『あっ、いやその!!変な意味じゃなくて、その…、拓哉くん頑張ってるから凄いなぁって…!』



「あなた焦りすぎ。笑 大丈夫、俺やってそれぐらいわかってるから!ほら、もう時間も遅いし、早く片付けて帰ろ?」



『う、うん…!!』




拓哉くんは私がマネージャーを務めるサッカー部のキャプテンで、エース。



そして、私が1年生の時からずーっと片想いをしている相手。



だけど、そんな私の気持ちなんて拓哉くんは知らないし



この先、私がこの気持ちを拓哉くんに伝えるつもりだって、全くない。



もちろん私だって、本音を言えば



好きな人と付き合いたい、とか、同じように好きになってもらいたいって、そう思う。



でも、拓哉くんはサッカーだけじゃなくて、勉強もルックスも、何でも完璧で



皆からの人気者。



そんな拓哉くんと私が釣り合うわけないし、好きになって貰えるはずがない。



だからもし私が告白したせいで、拓哉くんと今みたいに話せなくなってしまうなら



"選手とマネージャー"



これくらいの距離が、きっと私にはちょうどいい。



「あなた…?」



『え、あっ、ごめん…!ちょっとぼーっとしちゃってた!早く片付けないとだよね…!』



「まぁ、俺は別に遅くなってもええんやけど、あなたに何かあると困るからさっ!」




なんてそう言いながら、爽やかな笑顔を向けてくる拓哉くん。



そんな拓哉くんの笑顔にドキッとして、拓哉くんの言葉に



私の胸は、いつも以上に高鳴って。



「あなたの顔、真っ赤。笑」



『き、気のせいだから…!!』



あと一歩。



あと一歩踏み出せば、届く距離。



だけど、私にはその一歩を踏み出す勇気は、持ち合わせていない。



隣に並ぶ拓哉くんの横顔は凄く凄く綺麗で。



優しくされる度に、何度も高鳴る胸。



"選手とマネージャー"



それでいい。なんて、本当は嘘。



想いを伝えたいって思うのに、もし今までの関係が崩れてしまったら。



そんな事ばかりを考えて、躊躇ってしまう自分に腹が立って。



この距離さえもが、もどかしくて。




『あのっ「ねぇ、あなた。」



『っ、な、何…?』



「あなたはさ、…好きな人とか、居る?」



『っ、!』



「あの…、別に答えなくなかったら、無視してええから…!その、ちょっと気になって…!」




少し、焦ったように拓哉くんがそう言って。



自分でも何故だかわからない。



わからないけど…




『…私は、居るよ…?好きな人。拓哉くんは…?』




なんて、気づいた時には私はそう言っていて。




「俺も、居る…かな。」



『そっ、か…。』




何となく気まづくなって、私達の間に流れる沈黙の時間。



だけど、私の心臓はうるさいくらいにドキドキしていて。



多分、これが最後のチャンス。



自分の気持ちを伝えるなら、今しかない。



後で伝えなかった事を、後悔するぐらいやったら



って、そう思って私が口を開こうとすると…




「あのさ…!!」




なんて、私よりも少し早く、そう声を出した拓哉くんは



いつになく真剣な表情をしていて。




「…俺、ずっとあなたのことが好きだった…!だから、もし良かったら俺と付き合って下さい…!!」



『っ…!!』




ずっと、私が伝えたくても、出来なくて。



拓哉くんから言われたらどんなに幸せなんだろうって。



そう何度も何度も思い続けた、その言葉。



いざ本当に言われるとなると、驚きと嬉しくて。



『私もっ…!私もずっと、拓哉くんの好きだった…!!』




なんて、涙ながらそう言えば



拓哉くんは、優しく抱きしめてくれて。




「あなた、泣きすぎ。笑 」



『だって、嬉しくて…!』



「俺も、めっちゃ嬉しい。絶対、俺と付き合ったこと後悔させへんから。」



『うんっ。』




なんてそう言いながら、2人でぎゅーっと抱き締め合って。




「絶対、幸せにする。」




"選手とマネージャー"



変わるはずがないと思っていた、私達のこの関係。



だけど、この日から。



拓哉くんは、私の大切な"彼氏"になった。







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