第127話

〔道枝駿佑〕不器用なりの伝え方
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2020/12/31 06:26


「日曜日…!!、6時にここで待ってるからっ、!」




なんて。



ただでさえ驚いているあなたに向かってそう言って。



逃げるように、俺が近所の公園から家まで走って帰ってきたのは、ちょうど今から5日前。



…我ながら、アホやなぁ、笑 って思ってる。



でも、そんなアホで不器用な俺には、こんなやり方ぐらいしか思いつかなくて。



"幼馴染"



小さい頃から家が近所で、親同士も仲が良くて。家族同然だと思っていた "幼馴染" のあなたのことを



"好き" なんだって。



そう、俺が自分の気持ちに気づいたのは、つい1ヶ月前のこと。



いつもみたいに、家に遊びに来ていたあなたに



"彼氏が出来た" と嬉しそうに言われたその時で。



今更、自分の気持ちに気づいた所で、俺が何かをした所で



もう遅いんだって、あなたには彼氏が居るんだって。そんな事、俺だってちゃんとわかってる。



…わかってるけど、1度気づいてしまったこの気持ちを、抑えることなんか出来なくて。



「…何やってるやろ、俺、、。笑 …かっこ悪っ…。」



"待ってるから" なんて。



日曜日、あなたが彼氏とデートすることも



そんな風に言われたら、誰にでも優しいあなたの性格じゃ、断ることが出来ないことも。



全部わかった上で、あなたに向かってそう言った俺は、最低すぎるし、かっこ悪い。



…なんて、そんな事を考えていれば、約束の6時まであと5分。



この一週間、何とな~く気まずくて。



ずーっとあなたのことを避けてたから、ちょっぴり緊張しながら待っていれば…




『…しゅん、、っ!』



「…っ!!」



『ごめんっ、駿、!少し遅くなっちゃった、、!待った、、よね…?』



なんてそう言いながら、パタパタと俺の方へとやって来るあなた。



「ううんっ、…俺の方こそ、ごめんっ、。デート…、してたんやろ?彼氏と。」



『…あ~、うんっ、笑 へーきっ。 …それより、どうしたん?笑』



「…へっ、?」



『なんか、駿がこんな風に私のこと呼び出すの、珍しいなぁ~って、思ってさっ!笑』



「…っ、!、、。」




今日のあなたは、いつも俺の部屋に来る時とは違って



大人っぽい服装に、おまけにちょっぴりメイクなんかもしたりして。



あなたがこんな格好をしているのも、その全てが俺の為じゃなくて



"彼氏" に喜んで貰う為なんだって事ぐらい、頭ではわかっているけれど。



楽しそうに、ニコって微笑みながら、俺に向かって笑顔を見せるあなたは



いつもの何十倍も、可愛くて…。



『……っ!、、…んっ!…もぉー、駿っ!! 私の話ちゃんと聞いてた!?笑』



『ほら、ここじゃ寒いし? 話あるんだったら、家帰ってからに「…あなた、ごめんっ。」



『…えっ、?、…わぁっ、!』



あなたの声はもちろん、他の周りの音なんて、何一つ聞こえてこないぐらい



いつもと違うあなたの姿に、惹き込まれて…。



気づいた時には、俺はあなたを自分の方へと引き寄せて、そのままぎゅっと、抱き締めていて。



『…あ、あのっ、!、しゅん、っ、!』



これ以上は、あなたを困らせるような事はしたくないって、そう思ってるはずなのに。



抱き締めたあなたから伝わってくる温もりは、想像以上に優しくて、温かくて。



「…好きっ、、。」



『…っ、!』



「好きや、あなたっ、、。…今更こんな事言ったって遅いのはわかってる。でも、俺は…っ!」




振られる未来が見えているのに。



伝えてしまえば、今みたいに "幼馴染" としてだって



あなたの近くに居ることは、もう、出来ないかもしれへんのに。



自然と溢れてしまったあなたへの想いは、自分でも止めることなんか出来なくて。



せめて最後に一度だけ。一度でいいから、あなたの顔を見て、ちゃんとこの気持ちを伝えたくて。



抱き締めていた身体を離して、あなたの方を見てみれば……



「…え、?、なん…で、、?…なんであなた笑って…、、。」



きっと、俺のせいで困らせてるんだろうって、そう思っていたあなたは



そんな俺の予想とは正反対に、何故か、嬉しそうに笑っていて。



『…ねぇ、駿。駿は…、さっ?、もし私が、本当は彼氏なんか居ないって言ったら、、怒る…?』



「…へっ、?」



『…私ね、!…ずっと駿に、、嘘ついてた…っ。彼氏なんか、今まで1度だって出来たことないのに、彼氏居るって…っ、、。』




なんて、そう言ったあなたの表情は、どこか切なくて。



「…なん、、で…、そんな嘘っ、、。」



『…だって、それは…っ!、、駿が、全然私の気持ちに気づいてくれへんから…っ、!』



「…っ、!」



『駿に、少しでも意識して貰いたくて、、。…ただの "幼馴染" なんかじゃなくて、"恋愛対象" として私の事を、見て欲しかったから、、っ!』



ぎゅっと、俺の服の袖を掴みながら、少し震えた声でそう言うあなた。



…本当は俺だって、薄々気づいてた。



あなたの気持ちにも、あなたに、…彼氏 が居ないことも。



だけど、不器用で、臆病者で。自分の気持ちさえも、よくわかって無かった俺は



もし、勘違いだったら…、なんて、そんな考えが頭に浮かんで、確信をつくのが怖くなって。



自分の気持ちにも、あなたの気持ちにも。ちゃんと向き合う事から、ずっと逃げていて。




『ねぇ、駿っ。…好きだよ…っ。小さい頃からずっと、駿の事が好きだった…!…だから、だから私と…!「待って、!」



「…その続きは、俺から言わせて…?」



…でももう、絶対逃げへんから。



今更なのかもしれへんけど、ちゃんと、伝えるから。だから……



「あなた、ずっと好きでした…! 俺と、付き合って下さい…っ!!」



『…うんっ、、はいっ、!…私で良ければ、お願いします…っ!』



なんて、そう言って。



幸せを噛み締めるように、2人でぎゅーっと、抱きしめ合って。



「…あなた、ほんまに、大好きっ。これからもずーっと、俺のそばに居ってな…?」



『…ふふっ、うん。笑 私も大好きだよっ、駿っ。』




幸せそうに微笑みながらそう言うあなたは



やっぱり誰よりも、可愛くて。特別で。



…いっぱい、遠回りもしちゃったけれど。



でも、絶対。あなたの笑顔は俺が守るから。



もし、あなたが不安になるような事があるのなら



何度だって、俺の気持ちを伝えるから。




だからずっと、俺の隣で笑っててな…?





「大好きやで、あなた。」







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