第29話

〔長尾謙杜〕人気者
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2020/07/19 00:02



人気者の彼の周りには、いつも沢山の人がいて。



根暗で友達も少なくて、取り柄なんて1つもない私とは、まるで正反対。



そんな謙杜くんは、私の憧れでもあり



どれだけ私が手を伸ばしても、努力をしても



想いなんて伝わるはずのない、手の届くはずのない、雲の上のような存在で。



どう間違ったとしても、私たちが関わることなんて絶対にない。



…はずやったのに、、




「あなたちゃん、大丈夫?さっきから様子変やけど、もしかして体調良くないとか!?」



『えっ、?あ、ううん!全然大丈夫…!』



「そう?それならええんやけど!あ、でもほんまに具合悪くなったら、ちゃんと言ってな?」




一体何をどう間違えたら、こんな事が起きるのか。



放課後の教室。



目の前にはキラッキラの笑顔で、こちらを見てくる謙杜くん。



私たち以外には、もう誰も残っていない。



そんな2人きりのこの空間で、私が謙杜くんに勉強を教えているなんて。



考えただけでも、ドキドキしすぎておかしくなりそうなくらい。



それでも、せっかく謙杜くんから声をかけてくれたチャンスなんだからって



緊張と恥ずかしさから、俯いていた顔を恐る恐るあげてみると



謙杜くんと目が合って。



自分でもわかるぐらい、みるみるうちに赤くなっていく私の顔。



「ふふ、可愛い。」




なんて、そう言いながら謙杜くんは微笑んでいて。



"可愛い"



謙杜くんのその一言に私の顔はさらに真っ赤になって、私は咄嗟に目を逸らす。



それでも尚、私の方を見つめてくる謙杜くんに



私の心臓は耐えられなくなって



『け、謙杜くんっ、勉強しないと…!』




なんて、そう言ってはみたものの…




「えー、ええやんもう勉強は!今は勉強よりあなたちゃんがええの!!」




謙杜くんが止めてくれそうな気配は全くなくて



そればかりか、さっきから私をドキドキさせるような事ばかり言ってくるから



勉強なんて、1ミリもしてないのに



私の頭の中はいっぱいいっぱいで。



とりあえず落ち着くために、私が一旦今のこの状況を整理しようとしていると




「あ!そうだ、あなたちゃん!勝負しようよ!」



『勝負…?』




なんて、突然謙杜くんはそう言ってきて。




「そう!!今度のテストでもし僕があなたちゃんよりも点数が高かったら、あなたちゃん僕の彼女になってくれへん?」



『彼、女…?』



「うん!彼女!!僕ずーっとあなたちゃんのこと好きだったんやで?…って、あなたちゃん聞いてる?笑」




彼女…?



謙杜くんが私のことを、好き…?




『えっ、…?え、えっ!?』




ありえへん!!!ぜーったいありえへん!!



だって、謙杜くんは皆の人気者で



それに比べて私は根暗で友達だってほとんどいないのに



謙杜くんが私のことを好きだなんて、そんなの…!!




「あ、言っておくけど嘘でも、冗談でもないで?僕、本気やから。」



『じゃ、じゃあ本当に謙杜くんは私のこと…?』



「迷惑、だった…?」



『め、迷惑だなんてそんな…!むしろ嬉しい…!!』



「じゃあ、俺テスト頑張るから!約束だよ?」



『うん…!』






なんて、この日から2週間。



私にとって雲の上の存在だった謙杜くんが



私の"彼氏"になったことは



きっと、言うまでもない。





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