コピー機から印刷した紙が出てくる。
コピーした内容はあの小説の続き。
宙が小説の続きを読みたい。
と言ってくれたから思わず嬉しくて印刷してしまった。
流石にパソコンごと持っていったらKUROと言う事が分かってしまう。
そんな事より喜んで貰える方が嬉しいからどちらにしても印刷するんだけど。
カバンには印刷したばっかりの小説と鉛筆、メモ帳を入れてあの廃ビルに向かった。
時間は昨日と同じ11時くらい。
鈍い音を鳴らしながら金属製の階段を登って屋上に出た。
バッと宙が振り向いた。
昨日見たばっかりなのにその笑顔が久しぶりだと感じるのは何故だろう。
甘ったるくて、でも何故か涼しげな言葉で僕を温めてくれる。
宙が僕に歩み寄りながら聞く。
バックの中から印刷してした物を取り出した。
そして、宙にそれを突き出すみたいな感じで渡した。
なんか恥ずかしい……かも。
それにサブ主人公の名前が僕だし。
恥ずかしくて行き場の無い目を泳がせる。
宙が何にも反応しないのが珍しいと思い、ちらっと盗み見る。
宙の表情が暗いと思ってしまったのは僕だけなのかな
だけど、怒っている様子にも見えない。
どちらかというと、悲しい…みたいな。
宙ぼそっと何か呟いた。
何を言っているのかは聞き取れなかったけど。
打って変わって明るい雰囲気。
そして、読んでくれていた小説を返してくれた。
宙が憧れている小説家……?
本を読む事は好きだから他の人のオススメの小説家の人とかは知りたくなる。
ドキッと心臓が飛び跳ねた。
KUROって……やっぱり僕の事だよね?
な、なんて答えたら良いんだろう。
こんなのどうやって答えたらいいんだよ。
宙の事を傷つけるような言葉で質問を返したくない。
だけどこのままだと宙と僕の間に溝ができてしまう。
多分こんな時かっこいい主人公ならこの状況を受け入れて「僕がKUROだよ」なんてセリフを軽々しく言ってみせるんだろうな。
……なんでこんな時にこんな事考えてるんだろ。
あーあ。
なんで僕はこんな妄想に影響されやすいんだろう。
僕は、まっすぐ宙を見つめながら言葉を放った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。