コンコンッと病室のドアをノックする。
ドアの向こうから聞こえる宙の声に何故か僕は安心する。
そして、僕は音を出さないようにゆっくりと病室のドアを開けた。
白い壁に白いベッド、カーテンがふわりと舞っている。
そのうえ、窓の外に都会の夜景が映っていてまるで絵のようだ。
病院のベッドの上に座っている君はいつも通りの笑顔で。
だけど、宙を離さないかのように絡みついている心電図のコードが痛々しく見えてしまう。
宙はピンピンした様子で腕を動かす。
その元気そうな様子を見て僕はホッと安心した。
でも、何故か心の底で”何か"が引っかかっていた。
まるで心のそこにあった苦くて黒いものをかき混ぜたみたいなこの感じ。
痛い。だけど苦しくない。
この正解のない感情はどうすればいいのだろう。
だから単刀直入に聞いてみる事にした。
いつも通りのような笑顔がこの状況では痛々しくて。
こんなに聞いたって相手に迷惑がかかる事だけって分かっているのに、お節介を妬いてしまう僕は本当にバカだ。
相手が違うって言っているのに、人を信じきれない僕も本当にバカだ。
それでも僕は好奇心に負けて聞いてしまった。
これから後悔する事も知らずに。
想像していた返答とは全く違う。
だけどその一言は僕の心を深く抉るような内容だった。
確かに、この病室は本やゲームなどの私物が多すぎる気がする。
僕は部屋をもう一度見渡して確認した。
いつも僕の憧れだった君が"一人ぼっち"なんて様子、想像出来なかった。
あんなにキラキラしていてクラスのリーダーみたいなイメージの子なのに。
こんな事思い出すだけで辛いはずなのに何故か君は笑ってて。
一瞬、君の考えている事が分からなくなった。
宙はベッドのシーツをギュッと握っていた。
まるで何かを言うことをためらうような表情。
そんな時でも僕は慰めてあげる事も、暖かい言葉をかけてあげる事も出来なかった。
何も出来ずに頷いているだけ。
病室が静まり返る。
さっきまで拭いていた風も空気を読むかのようにピタッと止まった。
そんな言葉が僕の視界を真っ黒に埋めつくした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!