第8話

エピローグ
986
2021/12/10 10:20
僕が小説家で宙が憧れてるKUROだって事。

親から小説家と生きていく事を反対されている事。

この頃スランプで思ったように小説が書けない事。

今まであった出来事を思い返せるだけ話した。

過去の事を考えてイラついてぶっきらぼうな口調で話していても宙はずっと話を聞いてくれた。
涼風 宙
今まで辛かったよね……


いつも通りの爽やかな声の癖に何故か声が優しくて甘くて。

自分の方が年上なのにこれだと僕の方が年下みたいじゃないか。
涼風 宙
僕は、黒斗が書く小説もKUROとして書く小説もどっちも好き。
涼風 宙
だから個人的に、黒斗には小説を書くのを続けて欲しいなって思ってる。
真剣な眼差しで見つめ返してくる。

そして、宙はいつもの笑顔に戻って笑ってくれた。

佐藤 黒斗
僕も、小説書くのは大好きだよ。
でも……
涼風 宙
「親が認めてくれないから」
……でしょ?
フェンスに体を任せて空を見上げる君が僕の瞳を奪っていく。

水色のフードが付いたパーカーが風に舞っているかのようにヒラヒラとなびいていた。
涼風 宙
じゃあ、黒斗がお母さんやお父さんに認められる様な事しようよ!
いつも通り笑っている瞳の奥にはちょっとした夢があって。

冗談で言っている訳では無さそう。

そう僕は認識した。
佐藤 黒斗
認められる事……
そんな事なんて出来る限りやってきた。

母さんや父さんに僕の夢を理解して貰えないのなら小説家の魅力を一生懸命に伝えた。

だけど理解して貰えなかった。
涼風 宙
 ほら!コレ見てよ。
宙が自分のバックからポスターのような紙を1枚取り出した。
佐藤 黒斗
オススメ小説大賞2021?
チラシのような紙に大きな見出しでそう書かれていた。
涼風 宙
今書いている作品、応募してみたら?
佐藤 黒斗
……えっ?
こんなダメダメな僕が?

こんな評価されるような物に出るのはまだはやいよ。

ムリ。ムリ。ムリ。

頭の中がはち切れそうなほどその言葉が駆け巡った。
涼風 宙
絶対に黒斗なら大丈夫だよ!
そんな誰にでも言える無責任な言葉が何故か僕にとっては魔法のような言葉に聞こえた。

ムリだって思っていた事もこの笑顔が僕に向けれるなら何だってやってやろうじゃないかって思えちゃうんだ。
佐藤 黒斗
(本当にずるいよ。)
宙が背中を押してくれるから頑張ってみようかな。

そう思った瞬間。
涼風 宙
げほっげほっ……
佐藤 黒斗
大丈夫?
宙が肩を上下されながら咳をした。

咳ぐらいでは心配しない僕でも大丈夫かなと思ってしまうぐらい。
佐藤 黒斗
(なんで、急に……
さっきまで元気そうだったのに。)
涼風 宙
だ、大丈夫……げほっごほっ…
絶対に大丈夫じゃない。

見ていて自分も苦しいぐらいキツそうで。
佐藤 黒斗
病院行く?
宙は、今すぐにでも倒れてしまいそうなぐらいフラフラだった。
涼風 宙
だ、大丈……ぶ…
佐藤 黒斗
いや、絶対に大丈夫じゃ……
そう言いかけた途端宙の体が傾いた。

佐藤 黒斗
……っ!
そして、屋上にドサッと鈍い音が響いた。

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