何気ない平凡な一日で終わった今日。
いつもみたいに一人で電車に乗った時。
一方から視線を感じた。
見渡してみるけど誰も見てないし…
気の所為かな…
視線を窓に向けていると
またもや感じる。
怖い…
私はまた、周りを見渡した。
奥でニヤッと笑みを浮かべる男性がこっちを見ている。
怖くて早く電車…着いて…!
両手に入る力が銀色の棒に伝わる。
手も汗ばんできた。
【○○です。降りる方は右側の…】
飛び出た。
一目散に。
走って…
走って…
駅の外まで突っ走った。
どうしよ…
後ろを振り向くとあの男の人がこちらに向かって
歩いてくる。
また、不気味な笑みを浮かべながら。
また、走る。
誰だかわからないのに…
怖い。
がむしゃらに走った。
何もかもわからずとりあえず走ってたら…
ある大きなマンションの前に立っていた。
ここは誰の家…?
友達の家?
とりあえず、マンションのエントランスに入ると
管理人室におじさんがいて。
前にも会ってたんだ。
私、記憶なくしてるんだ。
私は管理人さんの言葉に耳を疑った。
ここ、もしかして玲於クンの家?
でも、なんで私玲於クンの家が分かったんだろ。
分かるはずがないのに。
おかしい。
外で待ってます。って伝えて外に行く。
でも、なんで玲於クンなのかな。
亜嵐クンがいるじゃん。
流石に12月半ばになると気温も下がってくる。
体の芯が凍りそう!
腕を上下に摩って暖かくする。
今日は、雪は降らないって。
温暖な1日って言ってた。
すると
話しかけてきたのはあの男性で
玲於クンのマンションを下から見上げている。
男性の人は私の口を手で抑えて来た
腕も男性の力で固定されて動かないし…!
私、もう死んじゃうのかも。
玲於クン。
どう答えるのかな。
ただの友達っていうのかな。
ドキッ…
と言って私から離れていった。
その途端、私は力が抜けて座り込む。
駆け寄ってくれて背中を摩ってくれる。
そばに居てくれる玲於クンに抱き着いた。
横に居てくれるだけでこんなにも変わるんだと思えた。
なんでこんな初対面に近いのに優しくしてくれるの…?
玲於クン…
どうして…?
立たされた時、私の手は玲於クンの手の中に
包み込まれていたのだった。
暖かい。
どこかで感じたことのある感覚。
私、前に───────
力がぎゅっと強まった。
私も強める。
その繰り返し。
ただそれだけが楽しくて───────
着いたのは " 佐野 " っていう表札の前。
なんか…
見たことある気がする。
玄関に入ると玲於クンの匂いが一気にして倒れそう。
まって…
私、めっちゃ玲於クンのこと好きじゃん。
そう思ったら恥ずかしくなって熱くなるのが分かる。
でも、私亜嵐クンいるじゃん!
病気でもずっとずっと看病してくれて
ほんとにいい人。
やばい。
今、頭にいるのは玲於クン。
ただ一人。
誰一人頭には浮かばない。
そう言葉に発していた。
玲於クンは へ? って顔して私を見つめる。
慣れた手つきで珈琲を作る玲於クンのキッチン姿。
玲於クンを好きになったのは事実。
冷たくて時に怖い時もあるけど
根はすごく優しくて、皆からの憧れの的。
はい って渡してきた珈琲。
マグカップから伝わる熱い温度が今の私には
とても熱く感じた。
お互いソファに座って玲於クンは私の目を見つめる。
それに、私はドキドキして…
亜嵐クン、私といてそんなに楽しんでくれていたんだ…
そういう玲於クンの顔は見たことの無いくらい
優しく、穏やかな顔だった。
なのに、私は俯いて うん とも わかった とも
言えなかった。
ちょっと、苦笑いして私を見る。
危ない。
言ってしまうところだった。
マグカップを机の上に置いた。
ちゃんと、玄関まで送ってくれる。
ほんと優しい。
靴を履いて出ようとしたら
財布どこいった ~ ?ってポケットポンポンしたり
いつも持ち歩いている鞄の中をあさっている。
ちょっと、キツイ…
そんな真剣に言われたら 確かに って思うし
ごめんなさい って思う。
と言って私達は玲於クンの家から出て
寒い外に白い息を出して私の家に向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!