身体中が痛くて、今すぐ気を失ってしまいそうなのに立ち上がる私を見て 流石にシオンも絶句した。
そしてどうやら、絶句したのはシオンだけじゃなかったようだ。
リンッ__________________!
私の中で変に騒ぐ竜の細胞と共に、鳴った変な音。
その音が世界の時を止めているようだった、瞬き1つもせず動きを止められたシオン。私は、背後からねっとりと眺められる気配を感じた。
そこには、変な音を鳴らして時を止めた正体がいる___。
私は、ゆっくりと振り返った。そこには、居るわけが無い竜がいた。
怒っているのか呆れているのか分からない声で話す竜。
私が竜を見た瞬間、2人だけの空間に閉じ込められた。
真っ暗で何も無くて、私の目の前にいる竜だけが私の視界内に埋めた。
今までは、一方的に訴えるか…鳴き声しか聞こえなかった。だが、今は会話をする余裕があるようだ。竜は、真っ直ぐ私だけを見つめていた。
あぁ、竜も私と同じ黄金の目だ_________。
そう問いかけた竜の声。
素直に答えるイビルに、竜はため息をついた。
怖いのに、何故か…穏やかな気持ちでなぁんにも考えたくない気分に変えられる。
だけど、その度に私の名前を呼ぶロンの声を頼りに…辛うじて意識を取り戻していた。
竜の怒りが直接私にぶつかってくる。でも、イビルは怯むところか堂々と発言した。
ドンドンと足踏みしては、大声で竜は笑う。
何か不満があるようだったが、真っ直ぐ偽りのない目で見つめるイビルに竜は頷くしかなかった。
あぁ、私は竜の細胞なんかじゃなくて【影】だったんだ。
竜にとってかけがえのない【影】だったんだ……。
私は、【光】になりたくてここへ生まれ落ちてきたのかな?
気が済んだのか、「約束だぞ。」と言い残して姿を消そうとする竜に私は呼び止めた。
それでも、人間で少女で…この世では【光】になれている私の名前を伝えておきたくてイビルは言った。
イビルの言葉に竜は目を丸くしたが…怒鳴ることはなかった。
リンッ______________!
また鳴った音で私は現実へと戻った。スンッと雨の匂いがする。
気がつけば、外にはゲリラ豪雨になっていた。雨の滴が地面に強く当たる音が響く。
そう答える私に、シオンは「は?」と顔を顰める。そんなシオンを見て、私は確定を持てた。
寒雷師匠や、ロンとの特訓に トルナム国での特訓でもよく言われた言葉。
『よくもこの短期間で出来るようになったな。』
『覚えるの早いし、身につくのも早い。』
『動きのコピーが完璧だ。』
そして、気づいた。
竜の目は、それを捉える機能があるってこと。
それが発揮されるのに少しだけ時間がかかるデメリットがあるってことをイビルは自然と学んだ。
それに気づいた瞬間、5歳の時襲いかかってきた母親の動きがゆっくりに見えた原因も分かった。
さっきの戦いで随分時間は取れた、瞳が薄らと光り出す。
苛立っているシオンが、早速私に襲いかかってくる。シオンの立場で考えたら、あと一押しなんだ。
けれど、それはもう叶わなくなったことを私は知っている。
私は顔を横に動かして、襲いかかってくるシオンの剣を避ける。回避されて、シオンは一瞬驚いたがそのまま剣を振り回した。
…残念なことに、私は見えている。次にくる攻撃を。
お腹へ狙って振り回してきた剣に私は短剣で止めた。
それでも諦めずに続ける攻撃を全て私は回避する。
シオンの息遣いが少し荒くなり、瞬きする間が遅くなる。その隙を見て、私はシオンの両足に傷を入れる。
痛みによろめくシオンの頬に、私は蹴りを入れる。
その勢いで、シオンは空中を飛び…庭園へと身を投げられた。
激しい雨の中、庭園の地面の上でぐったりと倒れて動かないシオンに私はゆっくりと足を進める。
庭園と廊下は、私とシオンの血だらけだった______。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。