第69話

約束と覚醒と逆転
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2022/07/24 14:15
身体中が痛くて、今すぐ気を失ってしまいそうなのに立ち上がる私を見て 流石にシオンも絶句した。


そしてどうやら、絶句したのはシオンだけじゃなかったようだ。


リンッ__________________!


私の中で変に騒ぐ竜の細胞と共に、鳴った変な音。

その音が世界の時を止めているようだった、瞬き1つもせず動きを止められたシオン。私は、背後からねっとりと眺められる気配を感じた。


そこには、変な音を鳴らして時を止めた正体がいる___。


私は、ゆっくりと振り返った。そこには、居るわけが無い竜がいた。
_______貴様。
怒っているのか呆れているのか分からない声で話す竜。

私が竜を見た瞬間、2人だけの空間に閉じ込められた。

真っ暗で何も無くて、私の目の前にいる竜だけが私の視界内に埋めた。
イビル
___まともに会話ができるの、初めてね。
今までは、一方的に訴えるか…鳴き声しか聞こえなかった。だが、今は会話をする余裕があるようだ。竜は、真っ直ぐ私だけを見つめていた。


あぁ、竜も私と同じ黄金の目だ_________。
______そんなに死ぬのが嫌か?
そう問いかけた竜の声。
イビル
____そうね。
素直に答えるイビルに、竜はため息をついた。
オレは、お前が悲惨な死を嫌うと判断した。
だから、オレは一歩譲って死に方の運命を変えてやった。
他者から殺されて悲惨な死をする運命を変えた。
___お前も気づいたであろう?
オレは、自然な眠りで安らかに死ぬ方法に変えた。
イビル
___ええ、気づいてた。
イビル
時々、夢の中で姿を現しては上手く私を引き戻そうとしていたわね。
イビル
ここでの記憶を奪い、感情も奪い……、自分の名前でさえもだんだん思い出せなくさせる。
怖いのに、何故か…穏やかな気持ちでなぁんにも考えたくない気分に変えられる。

だけど、その度に私の名前を呼ぶロンの声を頼りに…辛うじて意識を取り戻していた。
血を流して死ぬ運命よりは、よっぽどいいはずだ。
なのに、何故逆らった?
仕方なくオレは、方法を変えた。
お前は、自分の力で戦って死にたいのだなと。
だから、自分の力で戦って死ぬ機会を何度も与えた。さっきもだ!!
なのに、お前はそれでさえも抗った!!
_____何故だ!!?
竜の怒りが直接私にぶつかってくる。でも、イビルは怯むところか堂々と発言した。
イビル
貴方は、何もわかってない。
イビル
何故抗うのか?
イビル
それは、自分の任務をまだ果たしていないからよ。
お前ごときに、何の任務があるか!
生まれ落ちてきた場所が間違えただけだ、英雄気取りはやめろ。
イビル
でも、私はそこに生まれ落ちてきた。
イビル
私は、ラザーラ国の王女として生まれた。
イビル
それもちゃんと意味がある。
ははっ!笑わせてくれる!!
そこまで感情や自覚を持つとは面白い!!
他の者は、快く運命を受け入れて己の一部になったと言うのにな!
ドンドンと足踏みしては、大声で竜は笑う。
イビル
いいえ、どっちみち私はそう近くない将来に貴方の元へ戻ることになる。
イビル
だけど、死に方は自分で決めるわ!
ははっ!自分で死に方を決める…だぁ?
イビル
誰の意思でもない、決められた方法でもない。
イビル
私は、自分の意思で貴方の元へ帰る。
イビル
もう少しだけ待っていてくれませんか?
もう少しで、もう少しで…全てが終わるから!
イビル
約束するわ、1ヶ月以内に貴方の元へ自分の意思で帰る。
何か不満があるようだったが、真っ直ぐ偽りのない目で見つめるイビルに竜は頷くしかなかった。
まぁ良かろう、俺の元へ帰ってきたら自然と全てを忘れて存在するだけの【影】になるからな。
あぁ、私は竜の細胞なんかじゃなくて【影】だったんだ。

竜にとってかけがえのない【影】だったんだ……。
私は、【光】になりたくてここへ生まれ落ちてきたのかな?
気が済んだのか、「約束だぞ。」と言い残して姿を消そうとする竜に私は呼び止めた。
イビル
______待って!!
なんだ、まだ何かあるのか?
イビル
___私の名前は……『イビル』です。
それでも、人間で少女で…この世では【光】になれている私の名前を伝えておきたくてイビルは言った。

イビルの言葉に竜は目を丸くしたが…怒鳴ることはなかった。
______そうか、せいぜい頑張るんだな

________…イビル。

リンッ______________!

また鳴った音で私は現実へと戻った。スンッと雨の匂いがする。

気がつけば、外にはゲリラ豪雨になっていた。雨の滴が地面に強く当たる音が響く。
シオン
___おや、お天道様も怒りかな?
イビル
___ううん、竜だよ。
そう答える私に、シオンは「は?」と顔を顰める。そんなシオンを見て、私は確定を持てた。
イビル
_____勝てる。
イビル
さっきので私は、もう貴方に勝てる。
シオン
……どういう意味だ?
イビル
この目で、貴方の全てを見た。
イビル
次に動くところ、考えていること、振り回す剣の早さ、呼吸のタイミング、血液の音、酸素の流れ、瞬きするタイミング……
寒雷師匠や、ロンとの特訓に トルナム国での特訓でもよく言われた言葉。


『よくもこの短期間で出来るようになったな。』


『覚えるの早いし、身につくのも早い。』


『動きのコピーが完璧だ。』
そして、気づいた。

竜の目は、それを捉える機能があるってこと。
それが発揮されるのに少しだけ時間がかかるデメリットがあるってことをイビルは自然と学んだ。

それに気づいた瞬間、5歳の時襲いかかってきた母親の動きがゆっくりに見えた原因も分かった。


さっきの戦いで随分時間は取れた、瞳が薄らと光り出す。
シオン
____じゃ、やって見せろよ。
苛立っているシオンが、早速私に襲いかかってくる。シオンの立場で考えたら、あと一押しなんだ。

けれど、それはもう叶わなくなったことを私は知っている。
私は顔を横に動かして、襲いかかってくるシオンの剣を避ける。回避されて、シオンは一瞬驚いたがそのまま剣を振り回した。

…残念なことに、私は見えている。次にくる攻撃を。
お腹へ狙って振り回してきた剣に私は短剣で止めた。
シオン
……ッ!!
それでも諦めずに続ける攻撃を全て私は回避する。

シオンの息遣いが少し荒くなり、瞬きする間が遅くなる。その隙を見て、私はシオンの両足に傷を入れる。
シオン
グワぁぁぁあああッ!!!
痛みによろめくシオンの頬に、私は蹴りを入れる。

その勢いで、シオンは空中を飛び…庭園へと身を投げられた。
激しい雨の中、庭園の地面の上でぐったりと倒れて動かないシオンに私はゆっくりと足を進める。




庭園と廊下は、私とシオンの血だらけだった______。







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