__ロンside___
____バタンッ。
もう戻らぬだろう家のドアを今、閉めた。振り返ると、そこには ぼぅと空を、朝日の空を見つめているイビルが居る。
イビルは、2日前の朝…荒れ果てた姿でこう言った。
『__王になる。』
どんだけ走ったのだろう、息切れしており服の何ヶ所か破れていた。
おまけに、いつも出かける時に被っていたマントが見当たらない。
その事から察した俺は、そう問いかけた。
彼女は、何も言わないばかりに頷いた。その顔には、もう昨夜までのイビルの顔はどこにも居ないように見えた。
そりゃ、そうだろう。___あれを見てしまったのならば、精神を保っていられない。
低くて細い声だけど、覚悟を決めた声だ。
そして、その日からイビルは変わってしまったかのように大声で叫ばず、笑わず、泣かず、感情に任せて怒鳴らず……腹を抱えて笑わなくなった。
イビルは、そう言い、ニコッと微笑むが俺にはもう…イビルの本来の笑顔は見れないと語った。
そして、俺も 浅く微笑んだ。
___________________
そして、次の日の朝に至る。
最低限度の荷物を抱え、俺には前 お世話になっていた槍をまた手に取る。
と一言供えて、背中に担いだ。
赤い糸で印つけた木を頼りにとにかく街の方へ降りた。
ラザーラ国と違って隣のトルナム国の街は賑やかだ。
焼きたてなパンの匂いが漂う。子供のはしゃぎ声が何処までも響き渡る所だった。
イビルは、マントが無い為、前髪をわざと下ろし 目を隠して俺の後ろをついていた。
布屋に寄り、俺は低彩度の千歳茶色の布をマントにするように注文した。
そして、4枚ほどの銭を店員に渡す。そして、新品のマントを受止め、それをイビルに渡す。
イビルは、それをふわっと体に包み着ると「ありがとう。」と一言 言った。
イビルの後ろに人混みに混じって、男性の何人かイビルのことを指差して話していた。
そいつらをキッと睨めつける俺にイビルも振り返ろうとする。
それを止めるかのようにイビルの腕を俺は掴んだ。
なんか言いかけたイビルを強く引っ張って全力で走り出す。
しかし、男性らも気づき 追いかけてきた。
その状況より、イビルも自分が狙われているのだと察した。察した瞬間、自分の目を醜いように右手で隠した。
その覆い方が俺には泣いているようにも見えた。
人々の居ない街外の野原まで逃げ込んできては、イビルを自分の後ろへ回し…久しぶりに槍を前へ出した。
3人ぐらいかと思えば5人ぐらいの男性が居た。
もう体作りしていると分かるばかりの体型だ。
でも、俺の槍になったらァ余裕だ____!
コソコソとイビルは、短剣を取り出そうとする。
俺の声に、イビルは鞘から剣を取り出すのをやめた。
あぁ、イビルの事をお嬢さんって呼ぶのはいつぶりだろうか。
俺がイビルにお嬢さんって呼ぶ時は大抵…落ち着かせる時だなぁ。___なんて事を考えていた。
そう言われた瞬間、イビルは視線を男性から外した。
一斉に5人腰から剣を取りだし、斬りかかって来る。
息の上がり方、足の動きに振るう剣のスピード。
一瞬にして捉え、僕は腰を低くしてしゃがんだ。
そして、槍を一回り足へ狙って回す。そこに引っかかった2人が地面に倒れる。
しかし、それを見抜いた3人はジャンプし…僕の上へ飛んできた。___しかし、心配は不要だ。
槍の先をすぐさま地面に差し、その勢いで僕の体は空中へ飛んだ。
そして、背中へ回りうなじを狙って一撃入れる。
相手からの攻撃を読み取って避けてから、槍を掴んで横から力強く振る舞った。
__イビルside__
凄い。……本当に凄いとしか言えなかった。
ロンの実力を今初めて目にした。小さい時、兄に1回も負けたことがねぇ。とか こん中で俺が1番腕が上だぜ。って言われても嘘だ。って思って信じなかった。
でも、いざ目の前で見ると……本当 強いんだなぁ。
そりゃそうか。強いから、用心棒という名を背負っていられる。
それに比べて、私はまだ未熟さを感じていた。
短剣を腰へ戻り、この場から離れようとした時だった。
後ろから誰かに私の口を布で覆われた。
息が出来ない!……苦しい!!
まだ居たのか!?いや、ロンは5人も相手をしているはず!
空いている足や手で抵抗しようとしても押さられてビクッともしない。ぼんやりとする視界で後ろの人を見ようとする。
その瞬間、私の口を覆う手に見覚えのある勲章があった。
赤と金色で縫われた龍の絵柄の布を巻いていた。
まさかと思いながらも、後ろの人の服装を見ると身分の高い服装だった。
何故……ラザーラ国の護衛がここに!?
ダメだ、このまま抵抗出来なかったら私は確実に死ぬ_____!!!
ぼんやりとした意識の中、私は全力で護衛の足を踏んだ。
効果はあったのだろう、護衛の力が抜いた瞬間 覆う布から口を出し…全力で名を呼んだ。
『__ッ、ロン!!!!!!』
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!