第67話

満月の下で
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2022/06/26 11:34
硝煙が薄れて敵軍も私の姿が見えるようになってきたタイミングで、私は走り出した。
護衛
くっ…!来るぞ!!
護衛達の視線は、イビルだけに絞っていた。だからこそ、気づかなかった背後。

気づいた時はもう手遅れ。護衛達の背後には、もう1人の女性が回り込んでいた。
ジアン
あんたらにイビルの相手はさせないよ。
護衛
……ッ!?
突然振り回してきたジアンによる重たい斧で、苦戦する護衛達。
___パン、パンパンパパッ!!
続いて、鳴り響くグレイの銃声。
グレイ 【近衛隊長】
何処を見ているんです?
お前達の相手は、僕でしょうが。
ジアン
ここから先は行かせないよ!
グレイとジアンが立ちはばかっている隙に、イビルとロンは応接間へと移動する。

サロンにいた護衛と監視塔から後々来た援軍は、ジアンとグレイの2人によって全員足止めされた。
響き渡る銃声とぶつかり合う剣の音を聞きながらも、イビルとロンは応接間へと繋がる道を走った。

そして、勢い良く応接間の扉を開いた先には、ソファーに腰をかけた厳つい男性が3人ぐらいいた。ロンより超える高い身長に肉付いた体つき。
顔に痛々しい傷を負った男性らは、やっと来たかと言わんばかりに立ち上がった。
軍兵
青い髪に、黄金の目。
軍兵
そして、頬にある傷。
そうか……お前がシオン様の言うイビルだな。
イビル
……!
ロンは、すぐさまイビルの前に立ちはばかる。
そのロンを見て、軍兵の男性らは嬉しそうに笑みを浮かべた。
軍兵
おっと、黒髪に槍使いの男性…
軍兵
お前が、用心棒のロンだな。
軍兵
お前とは是非、手を合わせたかった。
何せ、シオン様が唯一勝てなかった相手だからな。
ロン
はっ、ここで時間を費やしている暇はねぇんだよ。
軍兵
残念だが、ここで朝を迎えることになるだろうな。
ロンは、チラッと私の方を見た。ロンが言いたいことはわざわざ言葉にしなくても、イビルは分かっていた。
イビル
…ロン、命令よ。
イビル
___彼らを倒しなさい。
ロン
___御意。
ロンは、槍を壁に刺してその上に足を乗せては空中へと飛び上がった。
そして、一回転して軍兵の頭へ蹴りを入れようとするが…読み取られたのか早速受け身のポーズで止められる。

だが、そんなこともわかっていたのかロンは2発3発と続いて鋭い蹴りを入れてから地面に足を着いた。彼等には全然効いてないみたいだった。
軍兵
くくっ!楽しもうぜぇ!!
男性は、力強く地面に拳を叩き込むと まるで地震でも起こったかのような揺れが起こった。

イビルは、その揺れで立っていられず倒れた。そんなイビルにトドメを刺そうと立ち向かってくる軍兵が2名。
イビル
……ッ!
ロンは今、一番厳つい軍兵を相手にしていて私を守る暇なんてない。
私は、力強く振り下げてくる軍兵の剣を両手剣で必死に受け止めた。
だが、あまりにも力強すぎて私は軽々しく飛ばされる。
イビル
___つ、強いッ!!
空中に飛ばされた身体で、そのままでは壁にぶつかると頭を抱えた時、誰かに抱きかかえられて無事 着地させられた。

イビルの耳元で響く呼吸を整える音。恐る恐る瞼を開くと、そこには真っ黒な目をした男性の顔が見えた。
イビル
……ろ、ロン?
その真っ黒な瞳の表情は、まるで人を軽々しく殺めてしまいそうで私は少しだけ恐怖を感じた。

ロンなのに、ロンじゃない人みたいで……。
ロン
あ、……大丈夫か?
イビル
う、うん。ありがとう
ロン
イビル。さっきので分かったかと思うが、
あの3人には少し厄介だ。
ロン
だから、お前だけ先に庭園へ送り出す。
イビル
…分かった、お願い。
柔らかく微笑んで頷くロンを見て、さっきの恐ろしい表情は気の所為だとイビルは思った。

ロンは、私を強く抱き抱えながら攻撃を仕掛けてくる軍兵達を軽々しく避けて私を庭園に繋ぐ道へ届けた。

瞬間移動みたいで、何が起こったのか理解出来ない3人は一瞬動きが固まっていた。しかし、次の瞬間 もう庭園へ繋ぐ道にいる私の方に気づいては 行かせまいと全力で走ってくる。

私を地面に降ろしたロンは、私の両肩に手を置いて心強い声でこう言った。
ロン
___行け、負けるんじゃねぇぞ。
イビル
__勿論!ロンも死なないでよ!?
ロン
ふっ、御意。
いつもの余裕そうに笑うロン。その表情が何気に久しぶりで可笑しくて…私は小さく笑いながらも庭園へ向かって走り出した。

より向こうへと走り出すイビルに、ロンは最後まで『お前なら、大丈夫だ。』という微笑みで…ゆっくりとその先に誰にも行かせないよう扉を閉めた。
イビル
____あと少し…!!
私は長く続く道を、さっきよりも速度を上げて走った。

この道を私は知っている。かつて、父の死をこの目で見てしまった後 必死に助けを求めながら…兄から逃げた時に通った道だ。

そして、やっと満月が良く見えて…10歳の私が死にかけた廊下の最中に辿り着いては、私はゆっくりと横に広がる庭園へ顔を向けた。
そこには、満月を見上げる兄の姿があった。
イビル
_____やっと、やっとここまで来れた。
イビル
____ほんと長かった、シオン。
私の声に、満月を見上げていたシオンはゆっくりと私の方へ振り返った。
シオン
____ふっ、本当…君は頑張るよね。
シオンの赤く染まった目が私に向ける。
シオン
どうだった?必死に生き延びてきたこの6年間は。
イビル
____。
シオン
きっと僕の想像を達する程の苦しさだったんだろうね。
シオン
でも、大丈夫だよ。イビル
今度こそ僕が君の息の根を止めてあげよう。
変わらない笑顔に、ぞっと鳥肌が立つ。

シオンは、ニッコリと笑ったまま腰にかけてあった剣の鞘を抜いた。剣は、満月の光に反射して輝く。
イビル
実親を殺めてまで…お前がしたかった事って
……これ?
シオン
そうだよ、君にはきっと分からないだろうね。
シオンは、剣を舐めたかと思えば、いつの間にか私の目の前にいて足を振り上げていた。
イビル
……ヴッ!?
思いっきり腹を蹴られて、私はいくつのものの部屋の障子を突破させられた。

その勢いで、壁に頭を強く打って ぐったりとするイビルにゆっくりと庭園から廊下へと上って…1歩ずつイビルの元へ近づくシオン。


シオンは、想像していたよりも遥かに超える強さだった。








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