優しい川のせせらぎ。
ほんのりと匂う土の匂いに、水と混じってひんやりとした風が頬を撫でていく。
瞼を閉じていても分かる暖かい太陽の光。
鮮やかな葉に包まれた森の中、細い川のそばで1つ三つ編みをした青髪の女性が横になっている。
滴が川に落ちる音、それと同時に羽ばたく鳥。
そっと、黄金の瞳が姿を現す。
あれから、6年________。
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迷わないように赤い糸で結んで印をつけた森の道を抜けた先には、小さな家がある。
そこに、薪を割っている男性がいる。そして、私は彼をずっと前から知っている。
私は、腕についていた雑草を払うと…肩までの長さの黒髪を結む男性の元へ腰にかけていた短剣を取り出して近づく。
そして、あと5歩となった時 剣に力を込めて走り出す。
カチンッ_____!!!
短剣と斧がぶつかり合う。しかし、斧の方が力が強くて短剣は女性の後ろへと飛んで落ちる。
片手で握る斧で短剣を止めた男性は、薪から視線を上へ動かし満足そうに微笑みながらこう呟く。
『これで、1035勝0敗だな。イビル。』
地面に刺さった短剣を取っては、イビルは頬を膨らめる。
あの日、私達はあの場所から逃げた。
しかし、兄には勿論バレてしまい…父と母を殺したのは私だと国中に嘘の情報をばらまいた。そして、捕らえた物には必要な分の金でお礼するというおまけ付きで。
お陰様で、国の追っ手にプラス私の首を狙う者も増えてしまい…私達はついに4年前 母国から出て隣の国 【トルナム国】まで逃げ込んできた。
そして、今日の今日までモグラのように身を隠して過ごしてきた。
別にこうなってしまって悔しくは……ないかもしれない。だって…今の生活があの時と比べて苦では無いから。むしろ今の方が好きだ。
ずっとずっと…この場で過ごして静かに老いて行けばそれでいい。
上着を脱いで、お腹の傷を見せようと準備すると、
クルっと向きを変えて家の中へ入るロン。
しばらく間をして、家の中から『うぜぇ。』という声が飛んできた。
あの日、死んでもおかしくない傷を負った私にロンは持っている知識の薬学で半年も私の怪我を治そうと抗ってくれた。
だが、ロンは医者だと言う訳でもない。
だから、傷も綺麗にさっぱり消える上手に治療は出来なかった。
6年経ってもやはり、私の腹に残ってしまった傷。
ロンは、それを自分のせいだと責めている。
私はこの傷、好きなのにな。ロンが頑張って治してくれたもの。
あの時のロンは、今の私と1歳ぐらいしか違わない。
1人で怪我をしている人を看病するのは心細く怖かっただろう。それでもロンは、私が目を覚ます度に
『大丈夫だ、治るぞ。頑張れ、頑張れ、頑張れ。』
って。だから、私はこの傷を醜くは思わない。
服の上から、お腹の傷を優しくさすり…
私は、満面の笑みで言った。
イビル 16歳、ロン 21歳。
ラザーラ国の新王がついてから6年目。
ラザーラ国が乱れ始めてから、4年目。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。