_____とある建物の路地裏。日差しが届かず薄暗い
袋小路の形に成っている其の場所に、彼女は居た。
路地裏の1番奥
捨てられた古いベンチに膝を抱えて座って居る。
其処に元々住み着いて居たと思われる野良猫が、藍華の傍に寄り添っていた。。。
藍華は動かない。
代わりに....なのか、愛華の傍に居た野良猫が私の足元へと擦り寄って来る。
私は足に擦り寄って来た野良猫の頭をポンポン、と撫でてから藍華の方に歩み寄った。
コツン....コツン....
静かな路地裏では、私の足音が佳く響いた。
彼女との距離が縮まる。
あと20m
10m
5m
コツン....
藍華との距離、1m。
私が立ち止まった時、藍華は躯をビクつかせた。
手を伸ばせば届く距離。
手を伸ばせば抱き締める事も出来る。
接吻をする事だって出来る、距離。
でも、今の私には話し掛けるのが精一杯だった。
咄嗟に出た、其の言葉。
藍華は首をふるふると、横に振った。
藍華は再び首を横に振った。
藍華は少し身を縮めさせたものの、
また首を横に振った。
ゆっくりと話し始めた彼女の声は震えている。
私は「うん。」と、相槌を打つ。
顔を上げた彼女の顔は
何かを苦しむ様な、悲しむ様な、そんな、表情だった
透き通る様な白い肌に幾つもの大粒の涙が伝ってゆく...
言葉を詰まらせた私を見て、藍華はハッとした表情で
息を少し荒くさせた。
藍華は立ち上がり私の横を走り過ぎて行く
私が藍華を追おうと急いで振り向いた瞬間____
ニャォン
____猫が鳴いた
突如、世界がスローモーションに見えた
藍華は大通りの方へ走っている
駄目だ
彼女を此儘行かせてはいけない
私の感がそう脳に信号を出している
止めなければ、一生後悔をする様な
何かが起きる...そんな予感がした
それなのに....___
突如、私を纏う空気そのものが私を引き留めるかのように纏わりつく様な感覚に陥る
異能力?
否、其れは無い。
私は異能力を無効化する半異能力者だ
卦度、躯が云う事を聞かない
駄目だ。
駄目だと、判って居るのに...!
私は藍華の方に手を伸ばす....
届かない
届きやしない
大通りを走る車の音
人々の声
ざわめき
クラクションの音
藍華が大通りに出て、日光に照らされる
強くなる、車のクラクションの音..._____
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....漸く、躯が云う事を聞いた
やっと、私は走り出した
さっき迄の纏わりつく様な感覚はもう無い
けれど
此世界から音が無くなってしまったかのように
何も、聞こえない
人々のざわめき声が
全て遠くの出来事の様に、遠い。
路地裏から出て、日光に照らされる自身の躯
人集りを掻き分け、必死に...必死に......
車道の真ん中で血だらけで倒れている、
彼女の名前を呼んだ....____
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。