第8話

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2020/03/07 06:38
藍華side  時折  NO side





カリカリカリ.....と、万年筆で書く音だけが響く




部屋の主が不在のこの部屋で、部屋の主 太宰治の代わりに報告書の整理を行っている女性___北原藍華。


藍華は何時もより緊迫とした表情で万年筆で書き続けている。怒っている訳でもなく、また、悲しんでいる訳でも無い。

そして、その様子を心配げに見つめる構成員数名...。


何ともいえない雰囲気が、部屋中に漂っていた。











突如、勢い良く扉が開いた。


その扉を開けた者は
この部屋で、扉を乱暴に扱う事の出来る者...__
つまり、部屋の主。太宰治ある






北原 藍華
太宰さん...... どうでした?
太宰治
太宰治
話にならなかったよ

太宰はそう早口で云うと、ある戸棚から短銃を取り出し、早々に執務室を出て行こうとした。



ふと、太宰さんが何処か遠くへと行ってしまう気がし、咄嗟に太宰さんの外套の裾を掴む。
北原 藍華
ど、こに...行くんですか?


太宰さんは無言の儘、振り返らない。

カチッ...カチッ...と時計の針が動く音が鮮明に聞こえてくる。






ゆっくりと振り返った太宰の表情は強ばっていて...、少しの余裕も無い、何時もの太宰とは全く持って違う表情だった。

太宰治
太宰治
.......... 離せ。



冷たく突き放される一言...。

普段とは違う彼の姿に、藍華はビクリと躰を震わせた。


太宰治
太宰治
ッ......





彼は悲しそうに微笑むと
早足で執務室を出ていってしまった。。。















北原 藍華
.........お、いかけないと...ッッ!
藍華は暫くの間硬直していたが、
ハッと我に返り太宰を追い掛けて必死に駆け出した。















_______________



太宰さんを追い掛けて、到着したのはとある洋館だった。

目の前には沢山の死体。
そして、未だ微かに聞こえる銃声..._____



死体だらけで足場も無き道を、私は必死に走った。









此処迄ずっと走っていた所為か、息が苦しい。
酸素が頭に回らない。


それでも。私は必死に走った...


走って、走って、走って_____












其所に辿り着いた。










洋館の最深部。
広大で天井の高い舞踏室に、彼らは居た。




太宰さんはその中央で膝を着いている
視線の先にいるのは...____織田作さんだ。

太宰治
太宰治
こんな奴に付き合って死ぬなんて...
莫迦だよ
織田作之助
織田作之助
ああ。



織田作さんの下には大量の血溜まり...
見るからに、致命傷だった。
織田作之助
織田作之助
太宰.......云っておきたい事がある



私は、声を出せなかった。
足を動かす事も儘らなかった。

ただ。彼らの言葉を呆然と聞く事しか出来ない...。
太宰治
太宰治
駄目だ、止めてくれ。まだ助かるかも知れない、いや、きっと助かるよ。だからそんな風に
織田作之助
織田作之助
聞け
織田作さんの血に濡れた手が、太宰さんの手を握る。
織田作之助
織田作之助
お前は云ったな。“暴力と流血の世界にいれば、生きる理由が見つかるかもしれない”と.......
太宰治
太宰治
ああ、云った、云ったがそんな事は今
織田作之助
織田作之助
見つからないよ
太宰さんが息を飲むのが判る。

織田作之助
織田作之助
自分でも判っている筈だ。人を殺す側になろうと、人を救う側になろうと、お前の頭脳の予測を超えるものは現れない。お前の孤独を埋めるものはこの世のどこにもない。お前は永遠に闇の中をさまよう
太宰治
太宰治
...織田作.......私はどうすればいい?
織田作之助
織田作之助
人を救う側になれ
織田作さんは、云った。
織田作之助
織田作之助
どちらも同じなら、佳い人間になれ。弱者を救い、孤児を守れ。正義も悪も、どちらもお前には大差ないだろうが......そのほうが、幾分かは素敵だ
太宰治
太宰治
........何故判る?
織田作之助
織田作之助
判るさ。誰よりもよく判る
太宰治
太宰治
......判った。そうしよう
織田作之助
織田作之助
『人は自分を救済する為に生きている。死ぬ間際にそれが判るだろう』か.....その通り.......だったな
織田作さんは青白い顔で微笑した





藍華の瞳から、大粒の涙が零れる。
視界が滲んで、2人の姿が良く見えない


織田作之助
織田作之助
咖喱が食いたいな....



袖で拭っても拭っても涙が溢れて止まらない。




シュボッ...と、マッチで火をつける音がする

煙草の香りが漂う








太宰治
太宰治
っ......織田作....ッ

















織田作之助の命の灯火が消えた瞬間だった。

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