第65話

恋敵ー大貴sideー
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2018/06/12 09:18
 店の窓に飾られたマネキンと睨み合いをしていた俺を、聞き覚えのある声が呼び掛けた。

 茶色い爽やかな短髪に、クールな印象を与える整った綺麗な顔立ち。俺よりもずっと背が高く、ガタイもいい。
圭人
圭人
………有岡先輩、ですよね
 ………あの時、彼の告白をつい盗み聞きしてしまったからだろうか。何だかとても気まずく感じて仕方ない。

 キョロキョロと目を泳がせながら「あなたちゃんの友達、だよね」と答えた。
大貴先輩
大貴先輩
何してるの?
圭人
圭人
ああ……もう少しでクリスマスなんで、あなたにあげる物でも買おうかと思って
 そうだ、もうあと2日で12月を迎えてしまう。そうなればすぐにクリスマスという恋人のいない俺には全く無関係なイベントが訪れてしまうのだ。
 ふと再びマネキンの首に巻かれたマフラーに視線を送る。そうか、どうも迷って仕方なかったのは、もうすぐでクリスマスからなのか。



圭人
圭人
先輩も、あげるんですか?
大貴先輩
大貴先輩
………えっ
 本音を言うと、やはり少し迷っていた。
 彼氏でもない俺からマフラーを貰ったとして、果たしてあなたちゃんは喜んでくれるのだろうか?

 女心は秋の空なんて、よく言うものだ。
 もしかしたら彼が告白した事によって、あなたちゃんの想いも彼の方へズレていってたら。


 もしもそうだとしたら、俺からプレゼントを渡すなんて、そんなの迷惑じゃないだろうか?





大貴先輩
大貴先輩
迷ってるんだ
圭人
圭人
迷う? 何を?
 18歳の馬鹿馬鹿しい弱音を一体誰が好き好んで聞きたいだろう。俺は敢えて彼から顔を逸らしながら「色々ね」と声を低くした。
圭人
圭人
………そうですか。
それじゃ、何も買わないでくれると助かりますね
大貴先輩
大貴先輩
え、何で―――


 彼は凍り付くような冷たい瞳でこちらを振り返ると、淡々と「当たり前でしょ?」と言い放った。
圭人
圭人
いつまでもウジウジしている有岡先輩に彼女を幸せにできるはずがない。


………あなたを幸せにするのは俺だけで充分なんで
 ………俺は、何も言い返せなかった。
 ただその場を立ち去る彼の背中を、拳を握りながら見つめる事しかできなかったのだ。

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