真面目な顔をして問い掛けてくる圭人の腕を振り払う事はできなかった。だから私は俯いて顔を背ける事しかできない。
人の気持ちに鈍感な圭人でもさすがに嘘だと気付くであろう。そんな無理矢理な嘘を付いてみた。案の定、圭人は「嘘」と一言呟き、私の腕を握る手を少し強めた。
だが、先輩に彼女がいると口走ったのは圭人の方だった。今更そう言われた所で彼に「大貴先輩が好き」だとは言えるはずない。それを聞いて、きっと彼は自分の発言を後悔するに違いないから。
それは私だって十分分かってる。抱え込んでいいことなんて1つもなかったから。でも、でも………。
ただ一言ありがとうと伝えた私は、涙を拭い教室へと戻る事にした。
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教室に入って早々、つい先日デビューしたばかりの新人アイドル・花形モカちゃんが声を掛けてきた。まさかアイドルの子に声を掛けてもらえるなんて思っていなかったため、少し驚きを隠せなかった。
あまりにも直球な質問にまたまた驚かされた。目を丸くしてぱちくりさせる私に首を傾げながら「なんで?」と再び問いかけてきた。
そんなに仲良くない子に突然好きな人の相談をしても可笑しくはないだろうか。しばらく頭の中で考えてみたが、話す他ないだろうと渋々口を開いた。
モカちゃんはぼけーっとこちらを見つめながら消え入るような声でそう呟いた。あまり人の話に興味を持って聞くようなタイプの子では無さそうだ。
でも、人に話してみたせいか少し落ち着いた気がする。気休めなのかもしれないけれど。
ふふんと鼻を鳴らして笑いかけた彼女は、自信満々な笑顔で「見てたから!」とピースサインを見せた。やはりアイドルなのもあって笑顔が可愛い。本当に天使みたいだ。
とてもじゃないが恥ずかしかった。
思わず顔を両手で覆った私。アイドルの子に可愛いなんて言われると思っていなかったから、何だかとても照れ臭かった。
この日、初めて裕翔と圭人以外に友達ができた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!