第34話

もう少しだけ……
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2018/04/07 11:41
 彼とした初めてのキスは、きっと一生忘れない。

 先輩らしい優しさと甘酸っぱさが混じったオレンジのような味だった。

 ほのかに温もりを感じ取った瞬間、現状というのを理解し思わず私は先輩の両肩を突き放したのだった。
あなた

……せ、先輩………ッ?

大貴先輩
大貴先輩
わ……ご、ごめん………!
なんか、その………あー、俺最近変だなぁ………
 先輩が人と少しズレた存在である事くらい彼を好きな私がよく分かっていた。そのため、彼が「最近」と時を縮めた事にふと疑問を抱いた。
大貴先輩
大貴先輩
………ごめん
あなた

あ、いや………ッ

 先輩は声を低くして謝罪をしたが、私にその言葉を瞬時に理解する余裕は備えられていなかった。そのため、しばらくぽかんと口を開けたまま「え……」と言葉を詰まらせた。


 実を言えば好きな人からのキスは胸から発火でもするのではないかと思うくらい熱さを増し、喜びを掻き立てている。が、それを素直に口にする勇気は私にはない。
あなた

大丈夫、です……

 辛うじてそう返す事しかできなかった。
 もはや私の思考には言葉と言う言葉は溢れて来なかったのだ。


 ――――ごめんなさい。私の方こそ。
 心の中でそう彼に叫んでいた。
大貴先輩
大貴先輩
あ、そうだ………本……ッ
あなた

―――ッ! 待って!

 思考や口よりも先に身体が彼の動きを止めた。

 立ち上がろうと膝を立てた大貴先輩のシャツの袖を咄嗟に掴み、私の方へと引き寄せた。他に誰もいない図書室内でただ私の焦る声が響いたような気がした。


 心臓がまるで時限爆弾のように大きく音を立てながら一秒一秒脈を打っていた。緊張からか、どこか熱さを感じたのか。私の手には変な汗が滲んでいた。
大貴先輩
大貴先輩
………あなたちゃん?
あなた

待って………ください……ッ

 ――――少しの間でも貴方と離れたくない。

 そんな儚い想いが私の身体と唇を小刻みに震わせる。どこか縋るような表情を浮かべる私の顔が、先輩の焦げ茶色の瞳に映されていた。
大貴先輩
大貴先輩
…………
あなた

………ッ

 お願いです、先輩………いや、神様。
 もう少しだけこうして彼と居させてください。


 ――先輩の服を掴む手に、少しだけ力が込められた。

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