先輩との祭りは楽しかった。けれど、それと同じくらい辛く苦い思い出が残ってしまった。私はまだ立ち直れずにいた。
届けられなかった自分の不甲斐なさから。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私達の住む町でも毎年8月の半ばにお祭りがある。毎年圭人と裕翔と私の3人で行っていたため、きっと今年も同じようになるに違いない。
圭人の家に遊びに来ている私と裕翔は、顔をノートで扇ぎながら「暑い暑い」と汗を零していた。
そんな中、今年も圭人が例の祭りの話を持ち出してきた。私はノートをテーブルの上に置くとにんまりと微笑み答えた。
出来ない。
それは私達も同じだから何も言えない。けどその事実をわざわざぶつけてこない所を見ていると、彼のさり気ない優しさがひしひしと伝わってくる。
どうやら裕翔には先約がいたらしい。毎年何があってもこの3人で行っていたからだろう。今年は圭人と2人だけだと思うと何だか寂しくなる。
裕翔はもう一度「ごめん」と告げてきたが、大丈夫だよと2人で手を振り帰って行く彼の背中を見送った。
小さくなっていく彼の背中を見つめたまま圭人はどこか寂しそうな表情でこう呟いた。
“大人になれば”
彼の難しく寂しげな表情がそんな言葉を述べているような……そんな気がしてならなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。