第63話

気付いてあげなよ
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2018/06/03 10:03
 学園祭が終わり、いち早く片付けを終わらせた私達のクラスは、どのクラスや学年よりも早く下校することができた。

 今日も裕翔はモカちゃんと一緒に帰るようで、私は一人落ち葉に囲まれるいつもの道をとぼとぼと歩いていた。
  ―――楽しかった?
 不意に背後から女性らしい甘く高い声が聞こえ、思わず振り返った。

 誰なのかは何となく勘づいていた。
 でも、私の見当違いであってほしかった。

 でも、そこに立ち尽くしこちらをじっと見つめるその人物は、確かに“彼女”だった。
あなた

カナ先輩

カナ先輩
カナ先輩
……幸せそうにしちゃってさ
 ―――見てたんですか?

 なんて、そんな分かりきっている事をわざわざ尋ねる必要はない。白けた表情でこちらを見つめる彼女に私は「どうしたんですか?」とわざとらしくとぼけて見せた。
カナ先輩
カナ先輩
……いい加減にしてよね
あなた

はは、ごめんなさい

 一刻も早くこの場から抜け出したかった。そうしないと、大貴先輩だけでなく圭人や他の生徒達もどっと来てしまう。

 疲れたのだろうか。それとも単純に彼女と居たくないのだろうか。何だか今は、とても一人になりたい自分がいた。
あなた

……で、何の用ですか?

カナ先輩
カナ先輩
一つ確かめておきたくて
 カナ先輩は一度辺りを見回すと、少しだけ私との距離を縮めながらそっと尋ねてきた。



カナ先輩
カナ先輩
―――貴方、本当に大貴が好きなの?
 “好き”という言葉を耳にした途端、何だか答えるのが恥ずかしく思え、どうせならはぐらかしてしまいたかった。

 けど、目の前に立つカナ先輩の目はいつになく真剣で、そんな私の冗談など一ミリも通じなそうに思えた。


 熱くなる自分の頬にムチを打ちながら、一度深呼吸をした私は、カナ先輩を見つめ返しこう答えた。



あなた

好きですよ、誰よりも

カナ先輩
カナ先輩
………そう


 私の答えに対し、先輩は何も口にする事はなかった。

 が、その代わりだろうか。私の横を通り過ぎる際、彼女は一言「ちゃんと気付いてあげなよ」と震える声で囁いては薄暗い校門の外へとゆっくり歩いて行った。
 カナ先輩が口にした気付くとは、一体何にだろう。


 それにすら気づけない私は――――。

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