学園祭が終わり、いち早く片付けを終わらせた私達のクラスは、どのクラスや学年よりも早く下校することができた。
今日も裕翔はモカちゃんと一緒に帰るようで、私は一人落ち葉に囲まれるいつもの道をとぼとぼと歩いていた。
―――楽しかった?
不意に背後から女性らしい甘く高い声が聞こえ、思わず振り返った。
誰なのかは何となく勘づいていた。
でも、私の見当違いであってほしかった。
でも、そこに立ち尽くしこちらをじっと見つめるその人物は、確かに“彼女”だった。
―――見てたんですか?
なんて、そんな分かりきっている事をわざわざ尋ねる必要はない。白けた表情でこちらを見つめる彼女に私は「どうしたんですか?」とわざとらしくとぼけて見せた。
一刻も早くこの場から抜け出したかった。そうしないと、大貴先輩だけでなく圭人や他の生徒達もどっと来てしまう。
疲れたのだろうか。それとも単純に彼女と居たくないのだろうか。何だか今は、とても一人になりたい自分がいた。
カナ先輩は一度辺りを見回すと、少しだけ私との距離を縮めながらそっと尋ねてきた。
“好き”という言葉を耳にした途端、何だか答えるのが恥ずかしく思え、どうせならはぐらかしてしまいたかった。
けど、目の前に立つカナ先輩の目はいつになく真剣で、そんな私の冗談など一ミリも通じなそうに思えた。
熱くなる自分の頬にムチを打ちながら、一度深呼吸をした私は、カナ先輩を見つめ返しこう答えた。
私の答えに対し、先輩は何も口にする事はなかった。
が、その代わりだろうか。私の横を通り過ぎる際、彼女は一言「ちゃんと気付いてあげなよ」と震える声で囁いては薄暗い校門の外へとゆっくり歩いて行った。
カナ先輩が口にした気付くとは、一体何にだろう。
それにすら気づけない私は――――。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!