どうしても分からない。理解し難いんだ。
なぜあなたはあんなに鈍くて意気地無しな有岡先輩を好きでいるのか。嫌いになれないのか。
恋は盲目と世間は言うけれど、その言葉はもしかしたら事実なのかもしれない。と、ここ最近の俺はよく考えてしまう。
いつだってそう。俺は彼女の背中や横顔ばかりを眺めて生きてきた。これまで、ずっと。
どうして恋は理屈や常識が通じないのだろう。ああ、なんで…………。
あの子を本当に幸せにしてあげられるのは、俺だけ。これまでずっとそう思っていた。だから俺は何度も何度も、あなたが涙を流す度に側にいて支えてきたのに。
別に見返りを求めようなんて思ってもいない。けれど、でもやっぱり―――。
すれ違ってばかり、お互いに想いを伝えられずにいるばかりで、彼女はもうどうしていいか分からないはずだ。
こんな時、昔のように俺が側にいて「大丈夫だよ」と背中を押してあげられれば、きっと2人がはぐれる事はないのだろう。
でも―――。
2人が並んで幸せそうに歩く姿なんて、これ以上見たくないよ………。
ねぇ、あなた。
お願いだから、有岡先輩じゃなくて俺を選んでよ。
俺の背後から、銀色の丸いお盆を片手に持つ裕翔がそう声を掛けてきた。
俺は一切振り返る事もせずにただ一言「嫌だよ」と呟いた。彼のクラスからふんわりと優しいパンケーキのような香りが俺を切なく取り囲む。
違う。俺ではない。
彼女が一番困っている人と言ったら、俺なんかよりもずっと彼女の近くにいるはずだ。
………そう、有岡大貴。
あいつの存在が、あなたを苦しくさせているんだよ。
でも、それでも俺はあなたが大切なんだ。大切で大切で仕方ないんだよ。
大切だからこそ守りたい。
この気持ち、君にもいつか届くと願っているよ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。