第10話

お付き合い。
1,729
2018/03/02 11:48
 先輩の隣を歩くだけで、告白した時と同じくらい胸が締め付けられ息が出来なくなる。先輩、聞こえてますか? この胸のドキドキ音。
大貴先輩
大貴先輩
佐藤さん
あなた

へっ、なんですか……っ!?

 貴方に名前呼ばれるだけで、心臓が大袈裟な程に大きく跳ね上がるなんて、やっぱり恋はいつだって予想外だ。それはきっと初恋でも、何度も経験していても同じだと思う。
大貴先輩
大貴先輩
この後すぐ帰らなきゃ?
あなた

えー………

 あれ、そう言えば今何時だっけ?

 とっさにポケットからスマホを取り出し、開いてみる。画面には5時38分と記されていた。


 門限は一応部活の事を考えてなしになったし、その上今日は特に用事という用事はない。
あなた

特にないですっ!

大貴先輩
大貴先輩
本当!? じゃあちょっと寄りたいとこあるんだけどいい?
 そんなの聞くまでもない。どこへ行きたいのかは知らないが、先輩の頼みだもの。嫌って言えるわけないじゃないか。

 真っ赤に染まった顔を逸らし冷静を装いながら、か細い声で「いいですよ……」と小さくつぶやいた。今顔を上げたら口角が気持ち悪いくらいに歪んでいるのが有岡先輩にバレてしまう。
大貴先輩
大貴先輩
よかった〜! ありがとう、佐藤さん!
あなた

………っ! は、はい……っ!

 先輩はくしゃっと笑顔を見せ、私の髪を乱雑に撫で回した。

 髪の毛が乱れてしまうのもどうでも良いくらい嬉しかった私は、ただ「へへ……」と口元を緩めながら嬉しさを地面にこぼした。
大貴先輩
大貴先輩
じゃあ行こっか!
あなた

はいっ!

 まるで親猫を着いて歩く子猫のように、先輩の2歩程後ろを歩きながら彼の目指す場所へと着いていった。切ない事に、先輩と私との距離がそれ以上縮まる事はなかった。

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 しばらく歩いて辿り着いた先は、私が中学1、2年生の頃よく通っていたカラオケの隣にある小さな喫茶店だった。

 白い外壁に緑色のドアと窓枠。それはどこかイタリア等のヨーロッパを思わせるアンティークな雰囲気を感じさせる所。裕翔とか連れてきたら喜びそうだ。
大貴先輩
大貴先輩
最近新しくできたらしいんだよね!
あなた

えっ、そうなんですか?

 ああ、どうりで見たことがないと思ったら。

 舐めまわすように建物の上から下まで視線を巡らせながら眺めている私の腕を掴んだ先輩が、「ほら行こ!」と私の胸の内も知らずに堂々と店の扉を開けた。
 中は思っていた以上に綺麗でシックな小物や素材で店内を埋め尽くしていた。

 外と同じ白い壁に濃い茶色のフローリング。椅子やテーブル、カウンターや飾りである棚は全てアンティーク物で有名な所のものが使われており、より一層雰囲気を際立てているようだった。


 シャンデリアに似た形をした証明のせいか、店内は少し橙色のかかった黄色に染められており、それがまたいい味を出していた。
大貴先輩
大貴先輩
そんなに人いなかったねー
あなた

ま、まぁ小さなお店ですしね

 どちらかと言えば、女子高生達で埋め尽くされワイワイと楽しくはしゃぐよりかは、マダム達がお昼のちょっとした合間を見てお淑やかなお茶会を開いている方がイメージ的にもお似合いそうだ。

店の人
いらっしゃいませ
大貴先輩
大貴先輩
あ……2名で
店の人
お好きな席へどうぞ
 カウンターから顔を出したその人は、店ととってもお似合いな美人さんだった。芸能人で言えば北川景子似の切れ目がよく似合う20代後半くらいの若い女性。

 やはりお店の雰囲気と従業員はイメージ通りに構成されているのだろうか? どこかのキャバクラ店やメイド喫茶等のように。
大貴先輩
大貴先輩
じゃあ奥の席行こっか!
あなた

はい……っ!

 先輩は相変わらず掴んだ私の手を離してはくれなかった。

 このままずっと握られていたいと思う反面、恥ずかしさと緊張で小刻みに震える手に気付かれないかと言う少しの不安が私の心を葛藤した。

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