その夜は、嵐のような酷い風が外で靡いていた。窓越しに真っ暗な空を眺める私は、ふと夕方の事を思い出し、心臓が握られるような痛みを感じた。
もう少しだけ先輩といたかった。ただそれだけを願っていた。神様は、私のお願いを聞いてくれたのだとついつい思っていた。
でも、どうやらそれはほんの一握りの砂のように儚いものだったらしい。
先輩を困らせたい訳じゃなかった。むしろそれだけはどうしても避けたかった。なのに、それなのに………。
もしもあの時、「可笑しくないですよ!」と素直に伝えられていたら。もしも……先輩の事が好きですから、と告白出来ていたら。先輩はどんな顔をしてくれたのかな?
喜んでくれるかな。俺もだよって応えてくれたのかな。それとも………困っちゃうのかな。
先輩を困らせるくらいなら告白なんてしない。こんな私の想いなんて届かなくたっていいんだ。大貴先輩をこれ以上困らせるよりかは何倍もマシだと思えるから。
この気持ちが届かない事くらい、なんて事無いに決まっている。そう自分に言い聞かせた私は、この日以降先輩への恋心を自分の胸の内に秘めておく事にしたのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。