あと少しでクリスマスだ。裕翔はモカちゃんと一緒に過ごすのだろうし、きっと昔のように3人集まってのパーティーは難しい。
結局圭人ともギクシャクした関係のまま時間だけが過ぎてくばかりだ。はっきりとした答えを出せない自分にさぞかし腹を立てずに居られない。
幼なじみだからこそ、気づけなかった。
自分の想いにも、彼の思いにも。
だが、なぜだろう。大貴先輩と何かある度に彼の名前を頭の中で叫んでしまう私がいる。
別に、圭人の事が好きな訳じゃないのに………。
ふと、私の思考を遮るかのように部屋中に通話の着信を知らせる音楽が鳴り響く。せっかく圭人について考えてたのに、何をしてくれるのだろうか。
はぁい、と誰に返事をする訳でもなく声を上げるとスマホに手を伸ばした。着信は、なんと圭人からだった。こんなタイミングでの通話なんて、まるで何かの恋愛小説みたいだ。
それにしても、久々の通話は何だかとても緊張してしまう。胸がバクバクと音を立て、応答へ進める指が震え出した。
耳にスマホを当て、恐る恐る口を開いた。
久々だと思うとなぜかどうしても緊張してしまう。
緊張しているのは彼も同じなのだろうか。いつもよりも低いトーンで圭人が重々しく呟いた。動揺が隠せない私は、「あ、うん」と素っ気なく返事するしかできない。
どうやら彼の用件は、クリスマスの日に昼間でも夜でも会えないかという事らしい。
それこそ返答に少しばかり迷ってしまったものの、断る理由も無かった私は仕方なく了解した。
わざとなのか都合の良いという言葉は使われず、代わりに“好きな”と圭人は口にした。もしかして、私が渋っているのを感じ取られてしまったのだろうか?
それも分かってる。圭人が誰かを陥れるためにそんな言葉を口にする人ではない事くらい。分かってるから辛いんだ。そんな貴方を傷つけてしまうのだから。
………ねぇ、分かってよ。
私を諦めて、私を楽にさせて。
私の虚弱な気持ちがより彼を痛めつける。その事に気づいていても何も出来ない私は、また一つ彼の良心を削り取っていくんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。