勇気を振り絞って出した言葉は、無情にも花火が打ち上がる音に掻き消されてしまった。
せっかく頑張って口にしたのに、色とりどりの綺麗な花火によって全て台無しになった。その事に少し残念に思いながらも先輩の隣に立ち夜空に上がった大きな火花のアートを眺めた。
散っていく花火を眺めていた大貴先輩が、何気なくこちらに振り返りそう問いかけてきた。
私はとっさに彼の横顔を見つめていた顔を反らし、「何でもないです!」と必死に誤魔化して見せる。
なぜこういう時に限ってしつこく問いかけてくるのだろうか。普段は何の気なしに「そう?」とそれだけで終わらせるのに。
巾着を持っていた両手を後ろに回し、自身の指先を絡め合う。先輩は一度も髪や格好を褒めてくれないが、どれも好みでは無かったのだろうか?
それとも………私自体に興味がないのかな?
そんな不安に駆られながら彼の服の裾をそっと握った。
花火に照らされた私より少し高い貴方の顔は、花火よりもずっと綺麗でした。
花火の打ち上がった音と同時に思わず口にした。
私の精一杯の“好きです”という言葉、ちゃんと貴方の耳に届いたでしょうか?
その答えすら聞くことができないくらい、私は臆病者なんです。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!