第23話

温度差
1,443
2018/03/22 00:09
あなた

先輩……!

大貴先輩
大貴先輩
お、あなたちゃん!
 授業が終わり、裕翔と圭人は部活へ。何にも入っていない私は一人校庭の横をいつも通り歩いていた。

 前方からこちらへ歩いてきたのは大貴先輩ただ1人だった。いつも放課後に着ているユニフォームではなく、お昼休みにも見た制服姿。部活はこれからなのだろうか?
あなた

先輩、部活は……

大貴先輩
大貴先輩
今日は休み!
どうしよっかなーって思ったんだけど……
またあなたちゃんと一緒に帰ろっかなーって思ってね!
あなた

…………嘘ですよね

 先輩は後頭部を乱暴に掻きながら「参ったなー!」と豪快に笑い上げた。さすがにその嘘は分かりやす過ぎた。やれやれと苦笑しながら「で、どうしたんですか?」と再び問いかけてみた。
大貴先輩
大貴先輩
部活休みなのは本当!
でも素直に帰りたくなかったから誰か誘いに行こっかなーって思って
あなた

へぇ………

 ぼんやりと彼を眺める私に、先輩は「ところで!」と軽く手を叩いた。

 そして周りの人など気にもせず私の肩に腕を回した先輩は、ニタニタと怪しく笑いながら「あなたちゃんは?」と間近に迫ったその首を傾げた。
あなた

ひ、暇ですよ?

大貴先輩
大貴先輩
おっ!
それならー………!
あなた

………わ、分かりました……ッ

 近すぎる先輩との距離に耐えられなくなった私は、渋々先輩の頼みを了承した。

 別に先輩と一緒に居られることに対しての不満は一切ない。むしろ大歓迎と言いたいくらいだった。

 だが、それ以上に緊張が私の身体中を襲ってくる。これだけ近い距離にいたら私の胸の音が聞こえてしまう気がした。
大貴先輩
大貴先輩
おっ、まじで?
ありがとーう! あなたちゃん!
あなた

あ………はいッ!

 まるで子供のように大袈裟にはしゃぐ先輩の横を静かに歩く私。

 私達の温度差はかなりあるのだろう。横を通り抜けていく生徒達は、そんな私達2人を横目にクスクス笑っていた。
大貴先輩
大貴先輩
何が可笑しいんだろうねー?
あなた

えっ、そ………そうですよねー……ッ

 さすがに私の憶測を伝える勇気はなく、敢えて同調しておく事にした。どうやら先輩は気付いていないらしい。自分がどれだけ高温人間なのかを。

 そんな彼の能天気さを見習いたいと思う反面、こんな変化球な人になったら逆に疲れてしまいそうだと気持ちが後退した。
あなた

で、どこに行くんですか?

大貴先輩
大貴先輩
そう、それなんだよ!
どうしよ?
あなた

わ、私に聞かないでくださいよ………

 この街とは少し離れた所に住んでいるため、あまりここら辺の事は詳しくなかった。強いていえばこの前先輩と行った喫茶店がある事しか知らない。
大貴先輩
大貴先輩
またこの前の所行く?
あなた

は、はい!

 先輩と一緒ならどこでも嬉しい。
 どこでもとはいえ、もちろんだが行き先は常識の範囲内でお願いしたい。

 でも先輩はそんな酷いことをするような人じゃないから。大人達や第三者は、その安心感が隙になるなんて言うのだろうけど。
あなた

どこでもいいですよ
先輩と一緒なら

 ………なんて、いつか言えるといいな。
 その時、貴方はどんな顔を見せてくれますか?


 ――――大貴先輩。

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