今日は朝からとても幸せな気分なのです。
なぜなら……昨日先輩からメッセージが来たから。
すごく単純だと笑うでしょうが、恋する乙女にとっては好きな人からのLINEや電話ほど嬉しいものはないと思う。もちろん“身近な”幸せで言ったらだけれど。
そんな私の胸の内を知る由もない2人は、何やら怪訝な顔で私をじっと睨みつけていた。
やはり顔に出てしまっていたらしい。
よく考えてみれば口角がだいぶ上がっているのが自分でもわかる。2人の言う「変」とは、きっとこの事を言うのだろう。
そう言えば、あの後裕翔からも返信が返ってきていた。だが、有岡先輩から送られてきたその文に舞い上がってしまいすっかり忘れていたのだ。
圭人の突っ込みにより何とか難を逃れた気がする。難と表現してみたものの、言うほど大したものではないけれど。
顔の前で手を合わせ、裕翔に「ごめんね」と軽く謝罪すると、やれやれと呆れた表情でこちらに目線を送りながら「仕方ないなぁ」と息吹をこぼした。
そんな相変わらずの3人で登校。
これは小学生の時からずっと変わっていない。
何度か軽い喧嘩はした事があったが、お互いすぐに仲直りできていたためそこまで深い溝はできなかったし、できた所で気付いた頃にはもう無くなっていた。
そんな数々の壁を乗り越えてきた私達の絆は、きっと鋼よりもうんと堅い。私はそう思っている。
校門を潜り、昇降口へと向かっていた私を何処からか聞き覚えのある声が呼び止めた。辺りを振り返ってみるが、そこに心当たりのある人間は圭人と裕翔のみだった。
隣にいるのにわざわざ大きな声で私を呼ぶはずがない。いくらお馬鹿な2人とは言え、それは絶対にない。
前後左右をくまなく見渡していた私を、しびれを切らしたであろう裕翔が肩を叩いて教えてくれた。
とっさに彼が指差した方を見上げると、そこには3年生教室から私達を見下ろす有岡先輩の姿があった。
大きくこちらへ手を振る先輩に、恥ずかしながらもそっと胸の前で小さく振り返した。
先輩、今日もかっこいいかも………。
何やら思い出したかのように、圭人が少し不思議そうに呟いた。
思わず彼の方を振り返ると、「いや、それが………」と私が無言で問いかけているのを察したようで静かに口を開いた。
思わず先輩の方へ身体を向け直した。何かで殴られたような強い衝撃に襲われた。私の胸は苦しいくらいに強く締め付けられ、ショックなのかも分からない動悸で心臓が酷くざわついているのを感じた。
彼女なんて、彼女なんて――――。
先輩………嘘、だよね?
不意に頭上から先輩の名前を呼ぶ女の人の声が聞こえてきた。女の子らしい高くて明るい声。
先輩を有岡くんでも有岡でも大貴くんでもなく………呼び捨てで“大貴”と呼んだその人は。
怖くて見れなかった私は、思わず2人を置いて校舎の中へと駆け込んで行った。
――――信じたく………なかったの。
彼女さんの事なんて。
ああ、私………。
私が恋をしたのは好きになっちゃ行けない人だったんだ。
先輩…………ごめんなさい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。