第18話

いつもと違う君
1,499
2018/03/15 09:23
裕翔
裕翔
―――ねぇ、あなたって好きな人いるの?
 メニューを選び迷っていた私に突然裕翔がそんな事を口にしてきた。思わずメニューから目元だけを覗かせながら「何で?」と首を傾げた。
裕翔
裕翔
いや………気になっただけだよ
あなた

いる………よ
気になってる人、だけど…………ッ

 どうやら注文する物が決まったらしい裕翔は、静かにメニュー表を閉じると「そっか」と目を伏せた。

 これでも裕翔は私の初恋の相手でもあった。勇気が出ず告白しないまま恋が終了したお陰で、今の私達がいると思っている。


 男女の友情なんて有りやしないとよく漫画などで伺うが、それはもしかしたらその物語上での話なのかもしれない。

 確かにあの時、私と裕翔との間に流れていたのは“男女の友情”ではなく“私の片想い”だった。
 が、今はそれも全くない。もしもあの時告白していたらこんな事も無かったかもしれない。そう思うと胸が強く締め付けられるのを時々感じていた。
あなた

裕翔は?

裕翔
裕翔
え、俺……ッ!?
俺は………うーん…………
 長い間沈黙が流れた。その隙に注文する物が決まってしまった私は、そっとメニュー表をたたみ彼の返答をじっと待つ事にした。
裕翔
裕翔
いるよ、俺も
 1分2分が経ったその時だった。お冷の中に入れられた氷が崩れる音と共にようやく口を開いた。
あなた

へぇ、誰? どんな子?

裕翔
裕翔
えー………どうって……普通だよ
あなた

普通?

 それは顔の事なのだろうか。それとも………。

 そんな事を考えていると、ふいに裕翔が「それより注文は?」と声掛けてきた。あっ、と声を上げた私は、慌ててパンケーキを指差した。
裕翔
裕翔
それでいいの?
あなた

あ、うん………大丈夫

 裕翔は頭の上まで手を伸ばし店員さんを呼び付けると、淡々と自分のと私の頼む物を読み上げていく。そして店員さんもまた、聞こえるか聞こえないかの小さな声でそれをリピートしながら記入していった。
あなた

圭人何してんのかなぁ……

裕翔
裕翔
部活じゃない?
 どうしよう。全くと言っていいほど会話が続かない。テーブルに置かれたお冷に手を伸ばし、サッと水を喉に流し込む。

 はぁ、本当。どうしちゃったんだろう私。
 裕翔とこんなに上手く話せないの、彼を好きだった頃以来だ。
あなた

うーん………裕翔、なんか今日変じゃない?

 いつもよりうんとしんみりとした表情の彼に疑問を抱いた私は、思わず訊ねてみたのだが、裕翔は「ううん、何も」と首を横に振るだけだった。
裕翔
裕翔
…………あなた
あなた

ん?

裕翔
裕翔
“ずっとあなたが好きだったよ”
 それはもしかしたら、ただの私の妄想だったのかも知れない。だが、私のか耳にはそんな風に聞こえたのだ。

プリ小説オーディオドラマ