入学式から2週間が経ち、とうとうこの日を迎えてしまった。
そう、遂に今日訪れてしまったのだ。
部活の入部届けの締切日が。
教室内には、友達同士どこに決めたかなどという様々な声で騒然としていた。その中で私1人だけが未だに決まらずにうろたえていた。
もちろん強制的にどこかの部活に入らなければならないという決まりは特になかった。
そう。私が今悩んでいるのは、どこに入るかではなく入るか入らないかなのだ。
偶然隣の席になった裕翔が、何気なく訊ねてきた。私はぼんやりと彼を横目で眺めながら「決めてないよ……」と大きくため息をついた。
小さく頷き、もう一度ため息をこぼした。
ため息を付くと幸せが逃げるなんて、そんなくだらないジンクスなんかも存在する訳だけど、そんな事言っている場合ではないのだ。
私のクラスには4人佐藤さんがいるため、私以外の3人が「えっ」と一斉に机に伏せていた顔をバッと上げた。
……いやいや、あなた達じゃなくて私の方だから。
特にやりたい部活なんて見当たらず、渋々「特にないので」とどの部活にも入部しないという姿勢を表した白紙の用紙を先生に手渡しした。
本音を交えたその言葉は、あまりにも素っ気なく単純なものだった。
先生に用紙を渡した私は、何も言わずそっと席に着いた。隣で裕翔が何やら心配そうに私を眺めているが、そんなの気にならないくらい私の心はモヤモヤ感で一杯だった。
ここ2週間も先輩に会えていないのだからだろう。別に恋愛の意味とかなんかでは一切なくて、ただ単に元気なのかなぁってそれだけの意味。
ボソリと宙に吐かれたその言葉は、誰の耳にも届く事なく、静かに私の耳の奥を通り抜けていった。
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放課後、いつも通り帰る支度を済ませた私は、部活に向かう裕翔と圭人に背中を見せながら校舎を後にした。
裕翔も圭人もそれぞれ別の部活を希望したらしい。裕翔は写真部、圭人は……バスケ部と。
サッカー部員達がそれぞれ互いに掛け声を出し合うその横を淡々と通り過ぎる私に、聞き覚えのある1人の声が私の足を止めさせた。
思わずどうやっても届かないくらいの高さで建てられた鉄製のネットへと駆け寄った私の目の前には、とてつもなく会いたがっていたあの有岡先輩の姿があった。
だが、それはこの間の制服にお菓子の袋というイメージを覆すように酷く驚く光景だった。
――そう。先輩はサッカー部員として、青色のユニフォームを身にまとい私の方へと元気よく手を振っていたのだ。
私の問いには答えることはせず、先輩はこの前と同じ天真爛漫な明るい笑顔を私に見せていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。