結局先輩が出る種目は全て午後にあるということで、午前中はずっと側にいてこれまで空いていた溝を全て埋めようとしてくれるかのように、色々な話をしてくれた。
代わりに私も、悔いがないようこれまで話したいことを全て話し、彼を見送った。
初めての体育祭でこんなヘマをしてしまい、大好きな先輩の最後の思い出さえも奪ってしまった私自身を責めながらその日を保健室で1人過ごした。
――――先輩ごめんなさい。
そう宙に零しながら。
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そんな最悪だった体育祭から1週間が経った。どうやら先輩のいる青組が優勝したらしく、敵の組でありながらも大好きな人が勝ってくれたことに嬉しさが表情からこぼれ落ちていた。
おめでとうございます、大貴先輩。
心の中で何度呟いたか分からない。
そのくらい嬉しかったのだ。私が彼の思い出を潰してしまったとずっと責めていたから、彼が勝ったことでそんな退屈で最悪な体育祭が輝かしいものに変わったと思っていたから。
やっぱり圭人の言う通りだった。
またこうして、先輩と仲良しでいられる日なんて絶対に来ないと思っていたけど、圭人に話して良かったと思う。じゃなければ、今頃心を病んでいたに違いないから。
様々な幸せに囲まれている私は、スキップをしながら渡り廊下を歩いていた。そんな時だった。私の背後から、誰かが私に声を掛けた。
振り返るとそこには、体育祭の時に私達のクラスを率いる赤組の応援団長、高木雄也先輩が何やら不機嫌そうに眉間にシワを寄せながら立っていた。
その恐ろしい佇まいと眼差しに身構えながらも、震える声でそっと訊ねた。
怖くてどんどん顔が俯いていく。
必死にごめんなさいと謝る私のせいでか、周りの生徒達の視線が一気に私へと注がれ、まるで先輩が私を虐めているように捕えられてしまう状況を作ってしまった。
高木先輩の背後から響く大好きな人の呼びかけに、思わず俯かせていた顔を一気に上げた。
呑気にこちらへ手を振って歩いてくる先輩は、私の正面に立つ高木先輩に気付き顔を少し曇らせた。
体育祭の延長戦でも始まろうとしているのでしょうか。青組の幹部だった大貴先輩と、赤組の長であった高木先輩が睨み合う。
これまで1度も見せなかった大貴先輩の怒りを交えた表情に、思わず身震いした瞬間だった―――。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!