先輩とまた仲良くしたい。
そんな想いが脳だけでなく、身体全体を支配しているように思え胸を痛めた。残念ながら心で思うだけではどうする事もできない。そう………思うだけでなく、行動をしなければ。
なんて、簡単に言ってみるがそれが出来ていたら今頃こんなに辛い思いはしていないだろう。
机に顔を伏せていた私の名前を呼んだのは、部活に行くはずの圭人だった。頭上から私の肩を優しく叩いた彼が「大丈夫?」と微笑みを見せた。
裕翔と圭人と入れ替わりのような形で部活が休みなため、なかなか3人揃って喫茶店やゲームセンターへ向かう機会がなく、私としては少し寂しさも感じる程だった。
そうして寂しげに目を細める私に、「またどこか行く?」と圭人が静かに告げた。
じゃあ行こうか、と先に教室を後にした圭人の背中を追うように急いでカバンを肩にかけ教室を駆け抜けた。
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圭人と話していると、積み上げてきたこれまでの“嫌な事”や“辛い事”が全て洗礼されるような、そんな優しい聖母のような温もりを感じる事が多々ある。もちろん昔からそれは何一つ変わってはいない。
恥ずかしさを抑え込み、言葉を詰まらせながらも何とか説明した。その間ずっと圭人は少しも嫌がる事なく私の話に耳を傾けてくれた。
意味が理解できず首を傾げる私の頭を「何でもないよ」と微笑んだ圭人が優しくポンポンと叩いた。何だかお子様的な扱いを受けているような気がしてムッと頬を膨らませた。
わざと言わないようにしているだけで、本当は分かっている。圭人は私を励まそうとしてくれているという事くらい。だって、圭人はそういう人なのだから。
笑顔を引き攣らせながら言いづらそうに言葉を詰まらせた。あまり触れられたくない話だったのだろうか?
今度は何やら嬉しそうに口元が緩んでいる。引き攣ったり緩んだり、忙しい人だ。って……その原因は私にあるのだけれど。
ため息混じりにそっと宙に吐いたもしもの話。
どうやら圭人の耳には届かなかったらしく、圭人はそう言って儚く笑うと、「大丈夫、大丈夫」と背中を(押してくれるかのように)さすってくれた。
「そうだよ」やと言って支えてくれる幼なじみの優しさになぜもっと早く気づいてあげられなかったのだろう。
なぜ………こうまでしても思わせぶりでズルい大貴先輩を好きでいてしまうのだろう。
―――モヤモヤと渦巻く私の胸に、チクリと痛みを感じた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。