第27話

距離。
1,388
2018/03/27 23:16
 目と鼻の先に私達の通う学校が見えてきた。もう少しで先輩と離れ離れになってしまう。

 もう少しこのままでいたかった。
 あと少しだけ、先輩と一緒にいたかった。

 でも、彼女でも何でもない私にはそれを伝える勇気も資格もない。
大貴先輩
大貴先輩
…………
あなた

…………ッ

 先輩、何で何も話してくれないんですか?
 もう少しで一緒にはいられなくなるのに。

 ふと、先輩の手と私の手が触れる。
 もしも………この手を繋げたら。


 そんな事が頭を過ぎると、唐突に私は彼と手を繋ぎたいと言う欲求がこみ上げてきた。
 手、繋ぎたいです。繋いでもいいですか?
 なんて………言えない。言えないよ。
大貴先輩
大貴先輩
ん?
あなた

い、いえ………

 どうやら私の視線に気づいたらしく、きょとんとした表情で首をかしげて来た。そんな顔されたら余計に言えないじゃないですか………。
大貴先輩
大貴先輩
もうすぐ……だね
あなた

………そう、ですね

 勇気を振り絞れば届く距離にいるのに、どうしてもそれが出来ない私は相当の臆病者だった。
大貴先輩
大貴先輩
あ………ッ
危ないよ、あなたちゃん
あなた

へ………ッ!?

 突然そう言った先輩は、私の腕を自分の身体へと引き寄せた。何だと思い目を向けると、そこには大きな水溜まりがあった。

 先輩の胸板にしっかりと吸い込まれた私は、顔を真っ赤に染めながら「せ、先輩………ッ」と思わず声を震わせた。
大貴先輩
大貴先輩
…………ん?
 低い声で聞き返した先輩は、そのまま私の背中へと腕を回した。先輩の胸板に顔を埋める形になった私は、イマイチその状況を把握できていなかった。

 これは………いわゆるハグってやつですか?
あなた

せっ、先輩………?

大貴先輩
大貴先輩
もう少し
あなた

へ………

大貴先輩
大貴先輩
もう少しだけ………このままでいたい。
何でだろ、凄くそう思ったんだ
 声を震わせながら先輩はそう呟いた。目を見開き驚く私の様子など知る由もないだろう。

 もしも時間を止める事が出来たなら、このままずっと永遠に止めていたかった。私だって先輩と同じ気持ちなのだから。


 このまま………ずっと貴方と一緒にいたいです、先輩。
大貴先輩
大貴先輩
………って、可笑しいか
 目を伏せ儚く笑った先輩は、私の身体を引き剥がした。まだ分かれ道には少し距離があるにも関わらず、先輩は「ここでいいかな?」と気まずそうに言った。
あなた

…………はい

大貴先輩
大貴先輩
ごめんね、じゃあ………またね
あなた

………ッ

 ドキドキと締め付けられそうな胸の痛みのせいか、私は何も返答できなかった。

 先輩……行かないでよ…………。
 オレンジ色に染まった先輩の背中は、どこか切なく見え思わず涙がこみ上げてきた。

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